最終更新日:2019.06.13 公開日:2019.05.11
老後

判断力が低下する前に「家族信託」の活用を

高齢でも元気に活動できれば問題ないのですが、認知機能が衰え判断力が衰えてくると、さまざまな場面で支障が出てきます。例えば、自宅の傷みがひどくリフォームしたくても、修理もできません。さらに土地や家の処分も困難です。
 
その際、手助けになるのが、成年後見人と並ぶ「家族信託」です。
 
黒木達也

執筆者:

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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黒木達也

執筆者:

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

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増える認知症患者。困った事態も

人生百年時代などともいわれ、高齢化が進む中で、認知症の患者数も急速に増えています。10年ほど前の患者数は約400万人でしたが、2018年には570万人を超え、さらに増える傾向です。
 
認知症患者の場合、相続だけではなく、日常生活での不動産や金銭の管理に支障が出てきます。自分の土地や住宅を売買契約が出来なくなり、建物の改築や処分も出来ません。
 
認知症が進行すると、自分で判断が出来なくなります。家の建て替えや相続に関する相談などが出来ない状態になり、大変困惑することになります。こうした事態を避けるためにも、比較的元気な時期から対応策を考えたいものです。
 

第三者の成年後見人では無理なことも

成年後見人制度は、認知症などで判断力に欠ける人をサポートするもので、これまでは、多くの場合、家庭裁判所が司法書士など第三者の専門家を選定してきました。最高裁が方針を転換したため、今後は親族が認定されることが増えていきそうです。
 
しかし、身寄りがなく判断力を失った人については、介護施設への入居手続きや費用の支払い、必要資金の預金口座からの引き出しなど、第三者の成年後見人は必要不可欠です。
 
実際に、本人に子どもがいない人、親族同士の仲が悪い人などは、財産の運用よりも保全に万全を期すことが目的のときは、第三者の成年後見人は重要になります。
 
その一方で、自宅をバリアフリーに改修したい、一戸建てからマンションに移りたい、本人所有の株式を預金に移管したい、といったことは、成年後見人では難しくなります。
 
制度の基本が、本人の資産の保全にあり、運用や移転は対象でないからです。財産の運用が自由にできないことは、相続などを考えても好ましいことではありません。
 

家族信託は元気なうちに結べる

「家族信託」は、こうした事態にも対応できるメリットがあります。成年後見人とは異なり、認知症などで判断力が落ちる前に契約を結びます。
 
高齢の父親と働き盛りの息子を例に説明しましょう。父親は保有する財産を委託する「委託者」、息子は委託された財産を管理・運用する「受託者」、そして父親がその運用による利益を受ける「受益者」になります(「受益者」は母親でも可)。
 
要するに、三者で構成される枠組みで信託契約を結びます。認知機能が衰える前に契約できることがメリットです。
 
家族信託は、委託者が、自分の持つ財産(不動産、現金、有価証券、知的財産権など)を、信頼できる人(受託者)に、管理・運用を委託し、特定の人(受益者=委託者本人の場合も)に資するための、財産管理または財産承継のための手法です。
 
信託の対象は、不動産や現金など金銭的に価値のあるものでしたが、著作権や商標権など知的財産も対象になりました。
 
ただし、委託者の名誉や年金受給権といった固有の権利は、信託の対象になりません。契約を結べば、信託された財産は受託者(ここでは息子)に移りますが、あくまで名義上の移転です。
 
契約の範囲内であれば、受託者は不動産の修繕や売却、金融資産の運用も可能になります。成年後見人制度とは、ここが大きく異なります。
 
家族信託の場合、子どもなど家族個人が「受託者」となることが多いのですが、未成年者はなれません。受託者は、委託者の財産を管理・運用するための判断能力が必要なためです。
 
また、委託者と受益者が同一であっても問題はありません。家族全体の同意は不要で、委託者と受託者の同意があれば信託契約を結ぶことができます。
 

信託財産の帰属と制度の課題

信託契約を結ぶと、信託した財産の名義は、委託者から受託者に移動します。注意すべきことは、財産が受託者の財産になったわけではなく、あくまで「名義上」です。
 
不動産は、管轄する地域の法務局で信託を理由にした名義変更の手続きをし、信託目録を作成します。委託者、受託者、受益者の名前が記載され、不動産に関する信託の内容が明記されます。土地や建物の売却・購入などは、受託者が行うことが出来ます。
 
預貯金は、預けた金銭を第三者には譲渡できないという規則があるため、受託者が自由に預貯金を引き出すことは原則出来ません。委託者が早期に、定期預金を普通預金に移すのも一つの方法です。
 
あるいは信託契約を結んだ時点で、委託者が本人の預貯金を引き出し、その引き出した現金を信託するという方法をとります。その際、金融機関に信託財産の専用口座を設ける必要があります。
 
委託者が中小企業のオーナーの場合は、非上場の自社株を大量に保有しているケースがあります。判断能力が欠如すると会社経営にも支障が出てくるため、その前に受託者または事業の後継者に、非上場株式を信託することが出来ます。
 
ただし、上場株式に関しては仕組み上は可能ですが、家族信託に対応できる証券会社が少ないため、行いにくいのが実情です。
 
家族信託は2007年から始まった比較的新しい制度です。とくに不動産の管理・売買や、事業継承の面では有効な仕組みです。しかし、制度的には未整備のところも多く、預貯金や有価証券の信託に関しては、多くの課題が残されています。
 
今後、制度設計の再検討が必要になるかと思います。また、親族が成年後見人に就きやすくなりますので、どちらを選ぶかの判断も求められます。
 
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
 

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