更新日: 2021.06.23 介護
親の介護や自分の老後のこと。早めに親子で話し合い、将来に備えよう
今年のお盆には、すでに、久しぶりに会う親と真面目に話をしてきた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、この意識調査から見る親の介護について検証してみたいと思います。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
介護と就労は同時に起こるからこそ
想定される介護の期間は、父親で14年、母親で12年だそうですが、親の介護経験がない40・50代が予想する親の介護開始年齢は84歳で、自分が何歳まで働きたいかという就労希望年齢は67歳だそうです。この数字、リアルに感じた方も多いのではないでしょうか?
今は、60歳定年で退職し、ゆっくり老後を過ごすことはありえない時代です。「お金、足りるかな?」と心配するくらいであれば、できるだけ長く働き、就労と介護を両立していくというのが、今後のライフプランの大多数を占めるのでしょう。
この調査結果で、もう一点注目したのが介護の場所です。子ども世代が介護の場所だと思っているのは「介護施設」ですが、60・70代の親が介護して欲しいと思っているのは「自宅」です。
同時に、「もし、介護施設を提案されたら?」という質問もされていますが、愛着のある自宅から離れることに抵抗を感じながらも、子ども達への負担を考えるとやむをえないという回答が得られています。
施設か自宅の選択は親の意向を確認してから動くとなると、早めの準備が必要です。なかなか親が決められないのであれば、自宅の介護がいくらくらいかかるのか、そして、施設ならどれくらいかかるのか、参考に提案してみるのもいいでしょう。生命保険文化センターのホームページ(※1)が参考になります。
公的介護保険を使うと自己負担は軽減されますが、自宅で最後までということを想定すると、自宅の改修費用などが追加で必要になることがわかります。いずれにしても、親子でも、わかっているようでわからないことは多いはずです。
最後まで自宅で過ごしたいと思っていても、どうしようもなくなれば施設でも良いのか、施設でも、習字や絵手紙、カラオケなどさまざまなレクリエーションがあれば楽しめるのか、「嫌なら何が嫌なのか」「好きならどんなところが好きなのか」を言葉でしっかりと伝えあうことが大事なのです。
介護費用は親が出す? それとも子どもが負担?
「介護を担うのが誰か」という子どもへの質問に対し、一番多かったのは「自分」です。子どもが少なくなっていますので、大勢の兄弟で広く浅く面倒をみることは難しくなっているのでしょう。
ただ、介護と就労が同時に起こる場合、大変なのは時間のやりくりだけではありません。親子が近くに住んでいない場合には、旅費がかさむのはもちろん、仕事が休みの土日を利用して介護をしに通うのか、それとも親が子どもの近くに引っ越すのか、しっかりと話し合わないと、旅費や交通費の負担もあっという間にかなりの額となるでしょう。
就労しながら先のことを考えるのは大変ですが、父親で最大14年程度かかることが予想されることを考えると、最初から長期戦を覚悟して計画を立てるべきでしょう。
雇用保険では、親族を介護する際、勤務先に90日の介護休業を申請し、賃金の67%程度の給付金を受け取ることを考えるのも良いのではないでしょうか? まずは、使える制度を利用して、今後の介護計画と資金計画を立てることができます。
子どもの世代は、ちょうど教育資金と自分の老後資金の準備を並行して準備しなければいけない世代ですから、ただでさえ貯蓄できない期間に、さらに介護費用がかかります。
子どもの教育費をかけつつ、自分の老後資金の準備、そしてさらに親の介護費用の負担というのは不可能に近いでしょう。
できれば親世代が、ある程度費用については、自分たちのお金を使ってもらうのか、それとも保険などで準備するのかをはっきりとさせておくべきです。
親子でお金の話はしづらいものですが、そこはしっかりと確認しておかないと、誰が負担したのか、だれのお金なのかという境目があいまいになり、兄弟がいる場合などには、相続が起こった際、争いに発展しかねません。
親の介護で不安なことは
視点を変えて、介護を実際に経験した人に対して、どのようなことが困ったのか聞いた内容も紹介しておきましょう。
「自分の精神的な負担」が最も多く、「自分の仕事への影響」、「自分の健康、体力」が続き、「自分の自由時間の減少」、「介護費用」など、介護の負担は、お金の面だけでなく、精神面での負担もかなり大きいようです。ただ、実際に経験していない方では、親の介護に対する準備状況は、「自分ごと化」が進んでおらず、親の介護準備は進んでいないという方が大多数のようです。
実際にお金を準備するためには、保険に入るのか積立をするかということが選択肢として上がります。私たちFP(ファイナンシャルプランナー)が相談を受けても、保険に加入するのは、「お金に余裕があるのであれば」という条件付きで勧めることが多いのです。
なぜなら、民間の介護費用保険は、会社によって保険金が支払われる条件が異なります。公的な介護保険と認定基準が連動しているのか、会社独自の支給基準があるのか、介護保険といっても民間各社が統一した基準がないだけに、自分にとって最適な保険かどうか、一般の方に判断は困難でしょう。結果、「介護が発生すれば、必ず保険が支払われます」と言いにくいだけに、加入を熱心に勧めにくい商品となっています。
最低賃金は近年上昇していますが、社会保険労務士として仕事をしている上で、会社の景気が上昇して、社員の賃金が右肩上がりになっていっているとはまったく思えません。
そんな中、介護の費用は大問題です。親子で話し合うことで、早めの準備をすることができ、しっかりとした資金計画を立てられます。親子の話し合いが老後の安心につながるのです。
<参考>
アクサ生命「介護に関する親と子の意識調査2019」
(※1)公益財団法人 生命保険文化センター
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。