最近の特養と民間の介護施設の事情とは

配信日: 2020.06.29

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最近の特養と民間の介護施設の事情とは
高齢者介護施設の介護スタッフ不足や、介護施設での新型コロナウイルスの集団感染など、高齢者施設の話題は絶えることがありません。
 
介護保険制度の改正に伴い、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入居基準が改定されてから5年が経過しましたが、一方で、高齢者向けの施設が多数新設されるなど、介護施設を取り巻く環境は変わってきているようです。
 
ここでは、最近の高齢者施設事情について、特養・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の入居の条件や、その費用などに焦点をあてて考えてみましょう。
植田英三郎

執筆者:植田英三郎(うえだ えいざぶろう)

ファイナンシャルプランナー CFP

家電メーカーに37年間勤務後、MBA・CFPファイナンシャルプランナー・福祉住環境コーディネーター等の資格を取得。大阪府立職業訓練校で非常勤講師(2018/3まで)、2014年ウエダFPオフィスを設立し、事業継続中。NPO法人の事務局長として介護施設でのボランティア活動のコーディネートを担当。日本FP協会兵庫支部幹事として活動中。

高齢者介護施設の数と入所定員数

高齢者施設といえば、「なかなか入れない」というイメージをお持ちの方も多くいるかと思います。そこで、特養などの施設の定員は、現在どうなっているのか見てみましょう。
 
ここ10年間で、特養・有料老人ホーム・サ高住はどんどん新増設され、図表1のように、2010年から2018年の間で入所定員は約2倍(198.1%)に増えています。
 
【図表1】


(※1)厚労省資料に基づき筆者が作成
 
このほかに、施設数はほぼ横ばいですが、認知症グループホームや介護老人保健施設(以下、老健)などもあります。この10年の間で、要介護の高齢者が増えるのに対応して、受け入れるこれら3施設の数と入所定員も大幅に増えていることが分かります。

特養の入所待機者数はどれぐらい?

一時期、特養の入所待機者数の多さが社会問題となったことがありました。ただ、特養の定員はこの約10年間で135%増えたうえに、新設のサ高住や有料老人ホームが増えたこともあり、特養の入所待機者数は2014年の52.4万人から、2019年4月では29.2万人に減少しました(※2、3)。
 
これは、特養の入所基準が改定されて、要介護3以上に限定されたことも要因と考えられますが、全般的に特養を含む介護施設が増え、10年前に比べて入所しやすくなったといえるのではないでしょうか。
 
一般的に特養入所希望者は、複数の施設に入所申し込みをしているともいわれていますので、入所待機者の実数はさらに少なくなるかもしれません。
 
特養入所待機者数は、都道府県ごとに状況が異なりますので、一概にはいえませんが、2018年の待機者数は、約61万人の定員に対して約29万人であり、2014年頃の54万人の定員に対して52万人の入所待機があったときと比べると、入所待ち期間が短くなったのは間違いないと思われます。

特養・有料老人ホーム、サ高住の違いとは?

ところで、特養・有料老人ホーム・サ高住は、具体的に何が違うのでしょうか。項目ごとに比較してみましょう(図表2)。なお、これらの3施設の違いは多くありますが、ここでは最小限の項目に留めました。
 
【図表2】


厚労省資料(※1)などを参考に筆者が作成
 
3つの施設の違いとしては、費用面では特養が最も低額ですが、入所者の健康基準は特養では介護度が高いこと(要介護3以上)が条件であるのに対して、有料老人ホームやサ高住には特定施設*と非特定施設の2種類があり、非特定施設では要介護度が低いことを求められる場合があります。
 
*入居の要介護者に対して、入浴・排泄・食事などの介護、その他の日常生活上ならびに療養上のケア、機能訓練をする施設のこと。
 
有料老人ホームは特定施設が多く(介護付き有料老人ホームはすべて特定施設)、サ高住は非特定施設が多くなっています。
 
したがって、施設選びの際には特定施設かどうかを確かめることがまず大切になります。ほかに老健やグループホームという選択もありますが、上記の3つの施設の中で選択する場合は、入所時および毎月の費用負担額も、入所を検討する際の大きな要素になるでしょう。

特養・有料老人ホーム・サ高住の費用比較

特養の費用は、公的施設であることや、社会福祉法人や医療法人の経営であることから、全国的にほぼ統一された基準で設定されています。
 
一方、有料老人ホームやサ高住は、民間経営であることや、立地・建物施設の経済価値・食事水準・教養娯楽施設などで大きな違いがあり、負担額もさまざまです。
 
ここでは、特養は厚労省のデータ(※4)に、有料老人ホーム・サ高住については、各施設からのアンケートを集計した野村総研の調査データ(※5)にもとづいて、平均的な利用者の負担額を比較してみます(図表3)。
 
【図表3】


(※4、5)をもとに筆者作成
 
図表3は施設ごとの費用を一覧にしたものです。特養の場合はユニット型の個室の場合を挙げており、所得基準によって4.9万円、5.2万円、8.4万円、12.8万円の4段階になっています。また多床室の場合は2.4万円から9.2万円になります。
 
有料老人ホームは、介護付きと住宅型の2種類がありますが、ここでは合計の平均値のデータを表示しています。
 
入所時一時金は平均で235.9万円になっています。なお、データにはありませんが、立地や設備などによって一時金が数千万円の施設の広告を目にすることもあり、有料老人ホームは多様な選択があるといえるでしょう。
 
有料老人ホームの1ヶ月の平均費用は17.7万円ですが、介護付きでは25.0万円、住宅型では11.8万円になっています。住宅型の入所者は比較的要介護度の低いケースが多く、介護サービス費の負担が多い場合はさらに費用発生を考慮する必要があります。
 
サ高住の場合も、特定施設の月間費用は少し高額(2%程度)になっています。特定施設指定のサ高住は、実態は介護付き有料老人ホームと変わらない施設もあり、入所時一時金が数百万円以上の高級施設もあります。

まとめ

高齢者の急増に対応するため、ここ数年の間に数多くの特養・有料老人ホーム・サ高住が新設され、高齢者施設の選択肢が増えました。比較的リーズナブルな費用の施設から高級な施設まであります。
 
いざ施設を選ぶとなったとき、入所者の健康状態、施設の立地、機能、自宅からの距離、費用など多くの要件が考慮材料としてあります。60歳代後半からは、自分自身、また家族のためにも、さまざまな施設を見ておくのは有意義なことではないでしょうか。
 
[出典]
(※1)厚生労働省「介護サービス基盤整備について <参考資料>」
(※2)厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(平成26年)」(平成26年3月25日)
(※3)厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和元年)」(令和元年12月25日)
(※4)厚生労働省「介護老人福祉施設 (参考資料)」
(※5)野村総合研究所「高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査報告書(平成29年3月)」
 
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP


 

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