更新日: 2023.07.04 その他老後

〈老後2000万円の不足〉は「生活費」だけ?「介護費」「医療費」を含めるとどのくらい必要?

〈老後2000万円の不足〉は「生活費」だけ?「介護費」「医療費」を含めるとどのくらい必要?
老後の資金は2000万円不足するといわれて久しいですが、そもそも2000万円という数字の根拠はなんでしょうか。また、老後に不足するといわれている2000万円には、何が含まれているのでしょうか。
 
本記事では、老後の資金を、生活費、介護費、医療費と分けて考えたときに、トータルでどれくらい不足するのかを検証しています。老後の資金に不安を持っている人は、参考にしてください。
FINANCIAL FIELD編集部

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老後2000万円不足の根拠

老後資金が2000万円不足という情報は、国(金融庁)が公表したものです。しかし、2000万円という金額がひとり歩きをして、2000万円不足の根拠はあまり伝わっていません。
 
また、2000万円不足するのは生活費だけなのか、それとも、老後に必要な介護費用や医療費も含まれているのかについては、認識している人はあまりいないでしょう。まずは、老後資金2000万円不足問題の根拠を明確にします。
 

2019年の金融庁金融審議会「市場ワーキング・グループ報告書」が発端

2018年9月に金融庁は、金融審議会「市場ワーキング・グループ」を立ち上げ、複数回にわたって、「高齢社会における金融サービスのあり方」「国民の安定的な資産形成」を中心に、検討・審議を重ねました。
 
その結果を発表したのが2019年6月で、報告書「高齢社会における資産形成・管理」に取りまとめられています。審議のテーマや報告書のタイトルからも、金融サービスや資産形成に関する報告であることが分かります。
 
つまり、高齢者の老後資金について、詳しく調査した結果ではないと考えていいでしょう。
 

2000万円は単純な支出と収入の差額30年分から算出

老後資金が2000万円不足するという根拠となったのは、「高齢社会における資産形成・管理」に記載されているデータです。
 
報告書には、収入・支出の状況「平均的収入・支出」が以下のとおり記載されています。
 

◆高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)

●実収入……20万9198円
●実支出……26万3718円

 
報告書では、上記の差額の30年分(5万4520円×12ヶ月×30年=約1963万円)から、老後の資金は、2000万円不足すると結論づけています。つまり、老後の2000万円の資金不足は、あくまでも、平均的な収入と支出の差額から計算されたものです。
 
なお、支出には、医療費(月約1万5000円)は含まれていますが、介護費用までは含まれていません。
 

老後の資金を生活費、介護費、医療費から考える

金融庁の報告書では、医療費を含む生活費を支出として、収入との差額を算出しています。それを、生活費、医療費、介護費に分けて、見直してみます。
 
金融庁の報告書は、2019年以前のデータに基づいていますので、最新のデータで見直して、さらに、老後にかかる介護費と医療費も加えて、トータルで必要な老後費用を算出します。これによって、ある程度、正確な老後の必要資金を算出できます。
 

老後の生活にかかる金額

老後資金2000万円不足の根拠となったデータは、2019年の金融庁報告書記載のデータです。総務省にも、65歳以上で夫婦のみの無職世帯に関して、収支の最新データ(2022年度)がありますので、収支を表1で比べてみましょう。
 
【表1】
 

金融庁のデータ
2019年
総務省のデータ
2022年
収入 20万9198円 24万6237円
支出 26万3718円
医療費を除いた支出:24万8206円
26万8508円
医療費を除いた支出:25万2827円
差額×30年
カッコ内は医療費を除いた金額
約1963万円
(約1404万円)
5万4520円×12ヶ月×30年
約802万円
(約237万円)
2万2271円×12ヶ月×30年
差額×20年 約1308万円
(約936万円)
5万4520円×12ヶ月×20年
約535万円
(約158万円)
2万2271円×12ヶ月×20年

 
※金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」と総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要」をもとに筆者作成
 
2019年公表の金融庁のデータと比べると、総務省のデータでは、差額が少なくなっています。最新の総務省のデータのほうが、より現状を反映していると考えられますので、2000万円の不足は、800万円の不足まで減少したと推定できます。
 
また、65歳の平均余命(2021年)は、19.85歳(男性)ですので、20年間の差額で比較しても、最近のデータでは、大幅に不足分が減少していることが分かります。
  

老後の介護費負担額

介護費用の金額は、どれくらいを想定しておけばよいのかについては、公益財団法人生命保険文化センターが「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」の中で、以下のデータを提示しています。
 

介護に必要な費用と期間の平均

●一時的な費用の合計額……74.0万円
●月々の費用……8.3万円
●介護期間……61.1ヶ月

 
上記の数値(平均値)から、介護に必要な費用を計算すると、以下のとおりです。
 
8.3万円×61.1ヶ月+74万円=約581万円
 
なお、上記の数値は、在宅と施設入居を含めた平均値ですので、在宅の場合はそれよりも安くなりますが、施設に入居した場合は、より高くなる点にも留意しましょう。
  

老後の医療費用負担額

 
厚生労働省の令和2年度「医療保険に関する基礎資料」によると、年齢別の自己負担額と保険料は、表2のとおりです。
 
【表2】
 

年齢 年額自己負担額 年額保険料 合計
65~69歳 8万3000円 15万2000円 23万5000円
70~74歳 7万1000円 12万2000円 19万3000円
75~79歳 6万5000円 8万5000円 15万円
80~84歳 7万4000円 7万6000円 15万円
85~89歳 8万円 7万1000円 15万1000円
90~94歳 8万3000円 6万7000円 15万円
95~99歳 8万1000円 5万5000円 13万6000円
100歳以上 7万7000円 4万4000円 12万1000円
合計 61万4000円 67万2000円 128万6000円

 
※厚生労働省の令和2年度「医療保険に関する基礎資料」をもとに筆者作成
 
医療費に関しては、自己負担額は年齢とともに低くなるため、年齢とともに医療費が増えても、負担額はそれほど変わりません。さらに、75歳以上からは後期高齢者保険となるために、保険料も安くなり、医療費用に関しては、それほど負担は大きくないといえます。
 

老後にかかる生活費・介護費・医療費のトータル

老後の2000万円の資金不足について、生活費だけではなく、介護費と医療費も含めて見直した結果は、表3のとおりです。
※医療費は、生活費に合わせて、65歳から30年の95歳までとして試算
 
【表3】
 

生活費の不足 介護費 医療費 合計
約239万円
(医療費除く)
約581万円 約412万円
(保険料含む)
約993万円

 
※筆者作成
 

老後の2000万円の不足は生活の質によって違い、医療費用や介護費用は保険で大きくカバーされる

老後に2000万円不足する問題について、見直した結果、2000万円には介護費用は含まれていませんでした。そこで、最新データで数値を見直し、介護費用を加えて、医療費用も見直した結果、不足資金の2000万円は、半額以下まで軽減されています。
 
医療費や介護費は、保険によってカバーされている部分が大きく、特に医療費は、それほど大きな負担にはならないことも分かりました。もちろん、世帯によって、個別に事情も違いますので、一度、ご自身に合わせた老後の資金を試算してみましょう。
 

出典

金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(P10)

総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯)

厚生労働省
令和3年簡易生命表の概況 1 主な年齢の平均余命

医療保険に関する基礎資料~令和2年度の医療費等の状況~(P92)
公益財団法人生命保険文化センター 「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」(P170、173、174)
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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