更新日: 2024.06.27 その他老後
来年、65歳で定年退職を迎えるのですが、生活費が心配です。年金の繰下げ受給はしたくないのですが、ほかによい方法はないでしょうか?
今回は、「老齢年金の繰下げ受給」について解説するとともに、老後の生活費の心配を軽減する方法について考えます。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
老齢年金の繰下げ受給
65歳から受給することができる老齢年金は、66歳以降75歳までの間で繰り下げて、増額した年金を受給することができます(※1)。
1.繰下げの方法
老齢年金には、老齢基礎年金と老齢厚生年金がありますが、年金を繰り下げる方法には以下の3つの方法があります。
(1)老齢基礎年金のみ繰り下げる
(2)老齢厚生年金のみ繰り下げる
(3)老齢基礎年金と老齢厚生年金を繰り下げる
2.繰下げ手続き
65歳に到達する3ヶ月前頃に送付される封書の「年金請求書(事前送付用)」を提出しなければ、特別な手続きをすることなく年金を繰り下げることができます(※2)。
なお、65歳以前に「特別支給の老齢厚生年金」を受給している方には、はがきの「年金請求書」が届きますので、両方の年金を繰り下げる場合は、はがきを返送しないだけでよいことになります。一方の年金のみを繰り下げたいと希望する場合は、「老齢基礎年金のみ繰下げ希望」または「老齢厚生年金のみ繰下げ希望」のどちらかに丸を付けてハガキを返送します(※3)。
66歳以降に繰り下げた年金を受給するには、繰下げ受給を希望する時期に、近くの年金事務所または街角の年金相談センターへ、「繰下げ請求書」を提出します(※4)。
3.繰下げ期間と年金の増加率
老齢年金を繰り下げると、繰り下げた月数に応じて老齢基礎年金の額(振替加算額を除く)および老齢厚生年金の額(加給年金額を除く)に以下の増額率(最大84%)を乗じた年金額を生涯受給することができます(※1)。
増額率=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数
4.繰下げ受給の注意点
繰下げ受給する際には、以下の点に注意する必要があります。
(1)繰下げ受給により年金を受け取っていない期間は、加給年金や振替加算を受け取ることができません。
(2)繰り下げた年金を受給すると、年金額が増えるために医療保険・介護保険などの自己負担額や保険料、税金に影響する場合があります。
年金を繰り下げずに老後の生活費を捻出する方法
老齢厚生年金を繰り下げると、配偶者に対する加給年金が支給されない可能性や、年金額が増えることで税や社会保険の負担も増える可能性があるため、老後の資金を確保する手段としては、繰下げ受給を選択したくない方もいます。そのような方が、老後の生活費に対する心配を軽減する手段としては、以下の方法が考えられます。
1.生活費を切り詰める
65歳から受給できる老齢年金と保有する金融資産の範囲内で生活できるように、生活費を切り詰めることが考えられます。この場合は、一度節約できればその効果が継続する光熱水費や通信費などの、固定費を見直すことをお勧めします。
2.給与収入などの収入を得る
定年後も働くことを躊躇する方もいますが、「年金だけでは不足する生活費の分だけ、収入を得る」と考えると、無理なく働くことができるでしょう。また、収入が増えると医療保険・介護保険などの自己負担額や保険料、税金に影響する場合がありますので、働き過ぎには注意しましょう。
この際、自分の得意分野を生かすことを考えるとともに、シルバー人材センター(※5)に登録することも、一考に値するでしょう。
3.金融資産を活用する
保有する預貯金の一部を投資信託などで運用し、金融資産を少しでも増やすことを考えましょう。この際、退職金などまとまった資金を一度に投じて、多額の株式や投資信託を購入することは避けましょう。NISA(※6)のつみたて投資枠を利用した定期積立投信で、毎月一定の金額で一定の銘柄を、時間を掛けて購入するとよいでしょう。
また、変動金利型10年満期の個人向け国債を購入することも、老後資金を確保する手段の一つと考えられます。個人向け国債は元本割れの心配がなく、1万円から購入でき、購入後1年を経過すれば中途換金も可能です(※7)。
この際、金融資産の保有割合(ポートフォリオ)に配慮し、毎月の生活費や電気代などの支払いに必要な分は現金や普通預金、入院などに備える分は定期預金や国債、そして資産を増やす分は投資信託などと、使用目的に応じてバランスよく保有するようにしましょう。
まとめ
老後の資金を確保する手段の一つとしては、「老齢年金の繰下げ受給」が考えられます。しかしこれには、加給年金を受給できないこと、税や社会保険の負担が増えることなどのデメリットもあります。なお、加給年金がもらえなくなるために老齢年金の繰下げ受給を躊躇している方は、老齢基礎年金のみを繰り下げ、老齢厚生年金は65歳から受給するとよいでしょう。
「老齢年金の繰下げ受給」以外に老後資金を確保する手段としては、生活費を切り詰めるほか、働いて収入を得る方法や、NISAなどを活用して金融資産を運用し、資産の寿命を延ばす方法が考えられます。
出典
(※1)日本年金機構 年金の繰下げ受給
(※2)日本年金機構 老齢年金の請求手続き
(※3)日本年金機構 65歳時の年金の手続き(特別支給の老齢厚生年金を受給している方)
(※4)日本年金機構 66歳以後に老齢年金の受給を繰下げたいとき
(※5)公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会 シルバー人材センターとは
(※6)金融庁 NISA特設サイト
(※7)財務省 個人向け国債
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士