更新日: 2024.09.02 その他老後
会社では「重要なポスト」にいた父親が定年退職したとたんに家にこもりがちに。友人もいないし、「認知症」にならないか心配です。
専業主婦の妻(Aさん母)が身のまわりのことをしてくれるので、家事を手伝うこともなくテレビを見て過ごす日々……両親に何かアドバイスはできないか、とのご相談です。
執筆者:宮﨑真紀子(みやざき まきこ)
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、5年間繊維メーカーに勤務。
その後、派遣社員として数社の金融機関を経てFPとして独立。
大きな心配事はもちろん、ちょっとした不安でも「お金」に関することは相談しづらい・・・。
そんな時気軽に相談できる存在でありたい~というポリシーのもと、
個別相談・セミナー講師・執筆活動を展開中。
新聞・テレビ等のメディアにもフィールドを広げている。
ライフプランに応じた家計のスリム化・健全化を通じて、夢を形にするお手伝いを目指しています。
定年後、健康維持はできていますか?
“会社では重要なポストにいて”ということを考えると、Aさんの父上は現役時代、バリバリと働く仕事人間だったのではないでしょうか。Aさんのご両親のように“家事一切は妻に任せ自分は仕事に没頭する”という家庭構造は、働く夫と専業主婦のパターンではよく見られます。
ですが、問題は定年後にやってきます。現役時代は、1日のほとんどの時間を仕事に費やしていたので、リタイアするとその時間がポッカリ空いてしまします。もちろん時間だけでなく、頭も体も、力を持て余すことになります。
「リタイアして時間に余裕ができたらやりたいことがたくさんある」という人ばかりではありません。筆者の周りの例を見てみると、多くの人が「これまで一生懸命働いてきたのだからしばらくは休養したい」と、のんびりと過ごしています。
これまで町内の付き合いをしてこなかったので、地元に気軽に付き合える友人がいないのは、Aさんの父上に限ったことではありません。会社員時代の同僚たちも仕事上では大切なパートナーですが、いつまでも業務に口出ししていると、厄介者扱いされることにもなるかもしれません。
Aさんの心配は「このままの生活を続けると引きこもりになり、うつ病や認知症になってしまうのではないか?」「運動不足なので筋肉が衰えたり、生活習慣病を引き起こしたりするのではないか?」ということだと思います。確かに心配です。
“父親には元気で長生きしてほしい”と願うものの、アドバイスの仕方によっては父親の機嫌を損ねてしまう懸念があります。そこで、健康維持のための助言に関する具体例をいくつか紹介したいと思います。
健康長寿を目指すためには社会参加も
厚生労働省によると、2024年の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳で前年に比べて男性0.04年、女性0.05年延びました※1。「いつまで生きられるか」という平均寿命も大切ですが、近年言われているのは、日常生活に制限のない期間をあらわす「健康寿命」を延ばすことです。
双方の差は2019年で男性8.73年、女性12.06年です※2。いくら長生きしても、要介護状態では本人はもちろん家族も大変です。精神的だけでなく、経済的な負担も心配です。要介護度別の1人当たりの介護サービスに掛かる費用(月額)は、図表のとおりです。
(図表)
その差を少なくして“ピンピンコロリ”を目指すため、フレイル予防に注目が集まっています。フレイルとは、年齢を重ねて心身や心が衰えた状態のことです。
このまま放置していると要介護状態になってしまう危険があります。ですが、この段階で対策すれば元気な状態に戻ることも可能です。
健康長寿の秘訣ブック(東京大学 高齢社会総合研究機構)※3によると、フレイル予防の3本柱は、(1) 栄養、(2) 運動、(3) 社会参加だそうです。まずはこれらを意識してみてはいかがでしょうか?
フレイル予防の一歩は夫婦の会話から
Aさんのご相談、実はわが家も重なるところがあります。夫がリタイアして、2人の生活は様変わりしました。今までは家事をしなかった夫ですが、徐々に調理にチャレンジしています。
例えば、合わせ調味料のパッケージには、材料や作り方が記載されています。これを利用すれば簡単に「今日は僕が作った一皿」の完成です。私に指図されることもありませんので、満足度は高いようです。
Aさんのケースでは、ご両親にまず、おふたりで一緒にスーパーに買い出しに行くことから勧めてみてください。食べることは重要です。時間はあるはずなので、食材を吟味し調理する過程に興味を持ってもらえば、もしかしたらお父さまも料理を始めたいと思うかもしれません。
また、近隣を散歩すれば近所付き合いのきっかけも期待できますし、フレイル予防の3本柱は、意外と簡単にクリアできるかもしれません。
内閣府 令和6年版高齢社会白書※4によると、65歳を対象にした「親しくしている友人・仲間がいるか」の質問に対し、たくさんいる:7.8%、普通にいる:39.0%、令和5年度の回答はこのような数字で、平成30年度に比べて大きく減少しています。おそらくコロナの影響があるのではないかと考えます。
地域で参加できるイベントなども復活しています。“ご近所デビュー”も視野に入れ、セカンドライフを楽しむ情報収集をしてみてはいかがでしょうか。
出典
(※1)厚生労働省 令和5年簡易生命表の概況
(※2)厚生労働省 健康日本21(第三次)の推進のための説明資料 2.具体的な目標
(※3)東京大学 高齢社会総合研究機構 健康長寿の秘訣BOOK
(※4)内閣府 令和6年版高齢社会白書 第3節 <特集>高齢者の住宅と生活環境をめぐる動向について
厚生労働省 介護給付費等実態統計月報(令和6年1月審査分)
執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士