更新日: 2024.10.21 介護
親が毎日のように食料を購入し、買ったことを忘れて腐らせています。認知症だと思うのですが、私は親の口座や資産を管理できますか?
では、親の貯金の管理はどうすればできるのか。今回は、将来親の資産管理を考えている方へ、注意点とポイントについてお話します。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
認知症についておさらい
年齢とともに、「いつの行動だったのか」「会った人は誰だったのか」など、記憶が曖昧になることは誰にでもよくあることです。ただ、これで認知症になった、成年後見人がすぐに必要だとはなり得ません。つまり、単なる物忘れというレベルなのか、それともこのままでは大変になるというレベルなのかを判断する必要があります。
その判断のために、いきなり精神科を受診しようと親を誘っても、素直に行こうとならないこともありますから、まずはクイズ形式で簡単にできるようなサイトを見て、一緒に回答するのはいかがでしょう。
例えば、東京都福祉局の「とうきょう認知症ナビ」というサイトがあります。このサイトの「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」を見ると、「財布や鍵など、モノを置いた場所がわからなくなることがありますか」「今日が何月何日かわからないときがありますか」など、誰しも年齢とともに衰える「物忘れ」のレベルを受診するかどうかの指針にはなるでしょう。
そのほかにも、かかりつけ医に行って、健康診断のように認知症かどうかの判断をお願いしたり、お近くの包括支援センターなどに相談をしたりして、他の高齢者と一緒にデイサービスの利用などを始めるのもいいでしょう。
今の状態から悪化するのか、軽度の認知症で少しでも治療ができるのかなど、認知症は専門家の判断があってこそ、さまざまな支援や制度が利用できる「病気」なのです。
法定後見制度には「補助」「保佐」「後見」の3つの種類。判断能力によってできることが違う!
冒頭の相談者は、親の口座を管理したいという希望があります。ただ、自分以外の口座管理をするためには、成年後見制度などの利用が前提となります。
成年後見制度には、任意後見制度と成年後見制度があり、成年後見制度は、本人の判断能力に応じて、以下のように「補助」「保佐」「後見」の3種類に分類されます。図表1の、「後見」については、本人の代わりに、「原則としてすべての法律行為」が可能となっている点と、それぞれ種類が異なるごとに「同意見」「取消権」、および「代理権」の内容がポイントです。
図表1
今回の相談が「親の買い物をやめさせたい」という程度であれば、補助程度の「判断能力が不十分な方」に該当し、この制度の利用も選択肢となり得ます。
ただ、申し立てをする行為の内容については、「10万円以上、通信販売で購入した場合の取消権」など具体的に裁判所に申し立てる必要がありますし、取り消しできない行為もあります。図表1の「※1」に書かれているように、「日用品の取り消しは含まれません」ので、制度の利用は万能ではない点は注意点だといえるでしょう。
成年後見は、親族にとってハードルが高い
成年後見制度をご存じの方は増えてきており、筆者も気軽に質問を受けることも多くなりました。ただ、知っていても利用できるかどうかは、また別の話となります。
家庭裁判所に申し立てするためには、医師の診断書が必要です。申立書や手数料などもそろえなければなりませんし、書類作成から申し立てまでをするために、専門家にお任せするという方もいます。日常生活を送っていて、家庭裁判所に書類を提出することはなかなかないでしょうから、親族にとってハードルが高い制度です。
また、子どもが申し立てどおりに後見人に選任された後には、家庭裁判所への報告義務があります。家庭裁判所に、1年に1回事務状況を報告が必要なのです。
そもそも「財産を適切に管理する」ことが目的ですので、親の通帳を預かることとなっても、引き出したお金で自分の買い物を一緒に含めて購入するということは許されません。また、本人の代わりに買い物に行くような用事を代行しても、本人の口座から勝手に報酬を受け取ることもできません。
親族であっても、ちゃんとした財産管理をしなくてはいけない成年後見制度。利用するためには、しっかりとした下調べと覚悟が必要となるでしょう。
出典
東京都福祉局 とうきょう認知症ナビ
裁判所 成年後見制度 -利用をお考えのあなたへ-
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。