55歳、最近体力が落ちたと実感があり、今後も働き続ける自信がありません。いま退職するメリット・デメリットはありますか?
配信日: 2024.10.21
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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目次
家計資産をチェックして、年金の不足分を補うことができるか確認
Aさんがご相談に来られたという時点で、経済的な心配はないと思われますが念のため確認しておきましょう。
総務省の資料によれば、65歳以上の無職世帯の1ヶ月の消費支出は28万3177円です。これと老齢年金との比較で不足する分を補っていける貯蓄があれば計算上は賄っていけることになります。
比べた結果、家計運営上は大丈夫という前提で「働くのか」「退職するのか」を検討しましょう。
現役時代の全労働時間9万時間 VS 退職後の自由時間は11万7500時間
現役時代、8時間労働として1年間250日間、45年間勤務したと仮定した場合の全労働時間は9万時間、これに対して60歳男性の平均余命は約23年。8時間の睡眠以外の時間14時間を自由時間として1年間365日間、23年間過ごすと仮定した場合の60歳退職後の自由時間は11万7530時間です。
現役時代よりも長い人生の後半の自由時間をどのように過ごすかによって、Aさんの人生がより充実したものになるのかどうかが決まるといってもいいでしょう。
メリット1:自分のやりたいことが決まっていれば充実した時間に
最大のメリットは「自分の意思で自分のやりたいことをやる」、これに尽きるといえるでしょう。
同世代の方からのお話を伺うと、「お金」というよりも「退職しても何をしたらいいかわからない」という消去法的な理由で就労の継続を決める方も結構いらっしゃいます。
大学を卒業して40年間余り、人間関係は「会社の仲間、先輩、後輩、上司」あるいは「取引先の顧客」という中で過ごしてきた世代にとって、いまさら退職して新しく人間関係を構築することは考えられない、というのもうなずける話です。同様に話題についても、「どうすれば受注できるか」「どうすればより売り上げが拡大するか」「どうすればいい人材を採用できるか」がメインだった世代が、それ以外の目標や話題を探すことも難しいかもしれません。
これに対して、「退職したらこんなことをしたい」「こんな組織に参加してみたい」「こんな作品を作ってみたい」などといった目標がすでにある場合は、充実した11万時間になるでしょう。
メリット2:比較的体力があるうちに行動できる
2つ目は、後期高齢者になる前であれば、体力的に衰えたといっても、まだやりたいことができますし、行きたいところにもいける、つまり行動制限があまりないことです。
前述したとおり、「やることがないのでとりあえず働けるうちは働く」という選択をした人の中には、体力的にギリギリの限界まで就労を続けたために、本当に仕事から引退してしまうときには、旅行はできない、厳格な食事制限や毎日の通院が必須、という状態になってしまった方もいます。
「お金の心配はないが、使いたくても使えない」「もっと足腰が動くうちに仕事を辞めればよかったかもしれない」という話を聞くにつけ、どうにもできないむなしさを覚えるかもしれません。
デメリット:家計運営上の不安
これに対して、デメリットは1にも2にも家計運営上の心配です。長生きリスクといわれて久しいですが、年金だけでは賄えない昨今、これまで貯めてきた資産を取り崩して補っていかなければなりません。
さらに、物価上昇の時代には資産の目減りに対して保全する対応をとっているかどうかについても確認しなければなりません。
時間は戻せないことを踏まえてメリットとデメリットを比較する
大事なことは、メリットとデメリットを比較して、どちらがAさんのセカンドライフにとって大事かどうかを見極めることです。
ただ、時間は有限でありいつかは終わりのときを迎えるということ、体力的にも精神的にも「今の瞬間がAさんにとってのピーク」であり、今後は緩やかであれ急であれ、体力も気力も衰えていくということは認識しておかなければならないでしょう。
出典
厚生労働省 1 主な年齢の平均余命
総務省 家計調査報告 − 2024年(令和6年)7月分 − 無職世帯の消費支出
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者