定年後の再雇用で「月給50万→30万円」に減少! 雇用保険から給付金が「3万円」ほど出るそうですが、毎月もらえますか? 手続きは自分でするのでしょうか? 支給金額をシミュレーション
本記事では、そうした場合に活用されている「高年齢雇用継続基本給付」について、受給要件、受給額の改正や計算式などを紹介します。
特定社会保険労務士・FP1級技能士
再雇用時の労働条件
定年再雇用時には、賃金が下がることが少なくありません。定年到達により労働契約が一旦リセットされ、新しく契約を結び直すからです。多くの場合、雇用形態や責任の程度、職務内容などが見直され、同時に賃金も低下します。
再雇用で賃金が下がる
労働政策研究・研修機構の統計によると、継続雇用(再雇用は継続雇用制度の一つ)された労働者のうち、60歳直前から60歳台前半にかけて賃金が低下した人の割合は全体の78.05%で、うち52.52%の人は賃金が20%以上減少していました。さらに全体の18.27%の人は、40%以上の減少となっています。
こうした再雇用時の賃金の減少を補完するため、雇用保険には「高年齢雇用継続給付金」が設けられています。
高年齢雇用継続給付とは
60歳時に比べ、60~64歳の対象月の賃金が一定以上下がった場合は、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が受給できます。
高年齢雇用継続給付は、定年後も同じ会社で引き続き働く人のための「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当受給後に再就職した人のための「高年齢再就職給付金」の2種類があります。ここでは「高年齢雇用継続基本給付金」について説明します。
高年齢雇用継続給付金の受給要件と申請方法
高年齢雇用継続基本給付金は、どのような人が受給できるのでしょうか?
受給要件
高年齢雇用継続基本給付金は、雇用保険一般被保険者が次の要件に該当した場合に受給できます。
●60歳以上65歳未満であること
●雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
●対象月に支払われた賃金が、60歳到達時に比べ75%未満に減少していること
その他にも「対象月の初日から末日まで被保険者であること」「育児休業給付や介護休業給付の支給退職期間と重複しないこと」などの要件があります。
申請の方法
高年齢雇用継続基本給付金は、原則として、勤務先の会社が申請します。スムーズに申請が進むよう、会社の人事担当者から必要書類を求められたら、速やかに対応しましょう。
高年齢雇用継続基本給付金の申請は、原則として2ヶ月に一度です。給付金は直接、被保険者の口座に振り込まれます。
高年齢雇用継続基本給付金はいくら?
高年齢雇用継続基本給付金は、次の式で計算されます。
「対象月に支払われた賃金×支給率」
対象月に遅刻や欠勤による賃金控除がされている場合は、その控除がなかったものとして「支払われた賃金」を再計算します。
支給率の改定と計算例
高年齢雇用継続給付金の支給率は、2025年4月、図表1のように改定されました。改定後の支給率が適用される対象は、60歳到達日(誕生日の前日)が2025年4月1日以降の人です。60歳到達が2025年3月31日以前の人については、従前の支給率が適用されます。
図表1
厚生労働省 令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します
では、今回の事例で高年齢雇用継続基本給付金がいくらもらえるか、計算してみましょう。
事例:
●60歳時の賃金が「50万円」だった人が、2025年4月以降に60歳に到達した
●ある月に、再雇用後の月給「30万円(通勤手当等を含む)」が支給された
30万円/50万円=60%ですから、図表1に照らして、高年齢雇用継続給付の支給率は10%です。よって、支給された賃金30万円×10%=3万円が高年齢雇用継続基本給付金の金額となります。
残業が多かった場合:
同じ人のケースで、残業を多くしたため、ある月の賃金が「35万円」だったとしましょう。その場合の低下率は、35万円/50万円=70%です。高年齢雇用継続基本給付金の支給率は4.16%であるため、高年齢雇用継続基本給付金の金額は35万円×4.16%=1万4560円になります。
まとめ
高年齢雇用継続給付は高年齢労働者の再雇用等の際の賃金低下を補完するものとして、長い間、広く利用されてきました。しかし2025年4月には支給率が縮小され、今後も段階的に廃止に向かうとされています。
「65歳まで働ける社会へ」という言葉が、高年齢雇用継続給付制度が始まった頃のキャッチコピーだったと記憶していますが、2025年4月には65歳までの継続雇用が完全義務化されるなど「65歳まで働ける社会」は概ね実現したといえるでしょう。現在は「70歳までの就業」が努力義務とされ、高年齢労働者の一層の就業環境整備が期待されています。
出典
厚生労働省 Q&A~高年齢雇用継続給付~
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 第4章 雇用確保措置と高年齢者の仕事・賃金の配分
厚生労働省 令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士
