定年後の父が「貯金は100万円で十分」と言っていますが、老後に必要な現実的な金額はいくらなのでしょうか?
そこで本記事では、統計データや一般的な生活費の目安をもとに、老後に実際どの程度の費用が必要になるのかを具体的に解説します。
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目次
老後の生活費は月平均約15万~16万円
まずは、定年後の生活費がどれくらいかかるのかを見てみましょう。
総務省の「家計調査年報(家計収支編)2023年」によれば、65歳以上で単身無職世帯の平均支出月額は14万5430円です。主な内訳は、以下のようになっています。
食費:4万103円
住居費:1万2564円
光熱・水道費:1万4436円
保健医療費:7981円
交通・通信費:1万5086円
教養娯楽費:1万5277円
その他の消費支出(日用品、交際費など): 3万821円
住居費は、持ち家の人が多いため家賃がかからない世帯も多く見られますが、賃貸住宅の場合はこの金額に5〜8万円程度の家賃が上乗せされる可能性があります。
公的年金だけでは月3万円ほど足りない?
一方、同調査によると65歳以上の単身無職世帯の平均的な実収入(主に年金収入)は、月あたり12万6905円です。つまり、毎月2万円ほどの赤字が生じている計算になります。これが1年続けば約24万円の不足、20〜30年と長生きすれば480〜720万円の累積赤字が発生することになります。
もちろん、年金の受給額は現役時代の収入や加入年数によって異なるため、これより多く受け取る方もいますが、「年金だけで生活するのは厳しい」というのが一般的な見方といえるでしょう。
「老後に必要な資金=1000万円以上」は本当か?
金融庁がかつて発表した報告書でも話題となったように、「老後30年間で約2000万円が必要」というのは、夫婦世帯を前提としたシナリオでした。しかし上述の通り、単身者でも毎月の赤字が2万円の場合は年間で24万円、30年間で720万円が必要になります。
つまり、老後の備えとして少なくとも1000万円前後の貯蓄を目安にするのは、単なる理論上の試算ではなく、多くのケースで現実的な数字といえるでしょう。
父の「100万円で十分」説は成立するのか?
では、父が言う「100万円で十分」という考えは本当に大丈夫なのでしょうか? お父さまの発言が本当かどうかは、以下のような生活条件によって左右されます。
・年金の受給額が平均より高い(企業年金・厚生年金など)
・持ち家に住んでいて家賃が不要
・健康で医療費が少ない
・生活がとても質素(節約習慣がある)
・家族から定期的な支援を受けている
これらの条件がすべてそろっているなら、確かに「大きな貯金がなくても、なんとかなる」可能性はあります。しかし、どれか一つでも崩れたとき、特に医療費や介護費用が発生したときには、手元に100万円しかないというのはかなりリスクが高い状況になります。
老後にかかる追加コスト:医療・介護・住まい
老後の備えとして貯蓄が必要な理由は、日常の生活費だけではありません。老後には、主に以下のような突発的な支出がつきものです。
・医療費
高齢になるにつれて、通院や投薬、入院の機会は増えます。高額療養費制度で自己負担額の上限はありますが、慢性疾患や入院が重なると、毎年数十万円の医療費負担が発生することもあります。
・介護費用
高齢になると、介護が必要になるケースも想定されます。在宅介護では介護サービスの利用にかかる自己負担や、生活環境の整備、介護用品の購入などが必要になります。
さらに施設に入所する場合は、生活費やサービス利用料が加わり、まとまった支出となる可能性があります。これらは一度に発生するものではなく、長期にわたって続く可能性があるため、ある程度の備えが求められます。
・住宅の維持費
持ち家の場合は、屋根・外壁・水回りなどの修繕費に加え、固定資産税の支払いが発生します。
また、賃貸住宅の場合でも毎月の家賃に加えて管理費や共益費、火災保険料、更新料などの費用がかかるため、住まいの維持費は避けて通れません。老後の生活設計においては、これらの支出も見落とさずに備えておくことが大切です。
不足を補うにはどうすればよいか?
貯金を増やすのが理想ですが、それが難しい場合には、以下のような選択肢を組み合わせることでリスクを抑えることができます。
・年金の繰下げ受給(最大42%増)を検討する
・短時間のシニア向け就労を活用する
・医療・介護保険を活用し、リスクに備える
・住まいの見直し(家賃負担の少ない物件への転居)
・子ども世帯との同居や定期的な援助の相談
これらを組み合わせて考えることで、貯金が100万円しかない場合でも老後のリスクをある程度抑えることが可能です。ただし、上記のような突発的出費や長寿リスクなどには引き続き注意が必要です。
安心して暮らすためには「備え」がカギ
お父さまの「100万円で十分」という考え方は、生活スタイルが質素で、かつ年金収入が十分であれば成立することもあります。しかし、長寿化や予期せぬ支出を考えると、やはり現実的には1000万円前後の備えが一つの目安となります。
大切なのは、現実を知ったうえで「自分たちの老後にはどのくらいのお金が必要か」を正確に把握し、できる範囲で対策を講じることです。将来の不安を和らげるためにも、今から準備や情報収集を始めておきましょう。
出典
総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)結果の概要
金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
日本年金機構 年金の繰下げ受給
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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