定年後も働く予定なのですが、「年金が減らされる収入ライン」を先に知っておきたいです。また、実際に「減額されながら働いている」シニアは多いのでしょうか?
この記事では、支給停止基準額や、実際に減額されている人の割合などを分かりやすく解説します。
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目次
月収が51万円を超えると年金がカット
在職老齢年金の仕組みでは、「月の賃金(賞与含む)」と「老齢厚生年金」の合計が一定額を超えると、その超えた分の50%が年金から差し引かれます。
この「支給停止調整額」は毎年見直されており、2024年度は月50万円、2025年度は月51万円に設定されています。なお、減額の対象は老齢厚生年金に限られ、老齢基礎年金には影響はありません。
減額されている人は少数派
実際にこの制度の影響を受けて年金が減額されている人は、全体のごく一部にとどまっています。
在職老齢年金では、支給される年金が「全額停止」となる場合と、「一部のみが減額(支給停止)」される場合があります。これは、月の賃金と老齢厚生年金の合計が、基準額をどれくらい超えているかによって決まります。
例えば、基準額を大きく上回ると年金の全額が停止されますが、わずかに超える程度であれば、減額されるのはその一部にとどまります。
2024年7月に厚生労働省が公表した「年金制度基礎資料集」によると、2022年度末時点で、65歳以上で在職老齢年金を受給している人は約308万人です。
このうち、実際に支給が停止された人は約50万人で、全体の16%にとどまります。つまり、約8割超の人(約258万人)は年金を減額されることなく満額受け取っていることになります。
減額の対象となっているのは、主に「収入が高い人」です。例えば、再雇用などで現役並みの給料をもらう場合などが該当します。一方で、パートや短時間勤務といった働き方をしているシニア層の多くは、年金のカットを受けていないことがうかがえます。
支給停止・一部支給の具体例と計算方法のポイント
2025年度の在職老齢年金の支給停止調整額は、月51万円に設定されています。ここでは実際の計算方法と注意したいポイントについて解説します。
まず、カットされる額(支給停止額)は、次のように計算されます。
(基本月額+総報酬月額相当額-51万円)÷2
「基本月額」は年金の年額を12で割った金額、「総報酬月額相当額」は月給と1年間の賞与を合計し、12で割った額です。
【計算例】
老齢厚生年金(基本月額)が月10万円、月給(賞与込み)が44万円の場合は以下の通りです。
●合計額は10万円+44万円=54万円
●54万円-51万円=3万円(超過額)
●3万円÷2=1.5万円(カットされる額)
●実際の受取年金は10万円-1.5万円=8.5万円
基準額を超えなければ減額はありませんが、超えた場合はその分だけ受け取り年金が減る仕組みです。また、以下のような注意点もあります。
●加給年金額が加算される場合、その扱いが異なります。老齢厚生年金が全額停止されても加給年金が支給されることはありません。
●高年齢雇用継続給付を受給していると、在職老齢年金に加え年金の一部がさらに減額されるケースがあります。
●60歳以上65歳未満でも、2022年以降この同じ基準で判定されます。
複雑なケースや自分の状況に合っているか不明な場合は、年金事務所などで個別に相談するとよいでしょう。
高齢者の就労実態と今後の見直し動向
定年後も働き続ける人は年々増えており、シニアの就労は今や当たり前になりつつあります。総務省の2024年労働力調査(基本集計)によると、60〜64歳の男性の就業率は84.0%、女性を含めた全体でも74.3%に達しています。
また、内閣府が2023年11月に実施した「生活設計と年金に関する世論調査」では、20歳以上の回答者のうち44.1%が「年金が減らないように働き方を調整する」と答えています。「減るかどうかに関係なく働く」は14.0%、「働かない」は23.9%にとどまりました。
こうした結果から、多くの人が在職老齢年金の減額ラインを意識しながら、自分に合った働き方を選んでいることが分かります。
さらに、2026年度からは支給停止調整額が62万円に引き上げられる予定です。この見直しにより、これまでよりも多くの人が減額を気にせず働けるようになり、収入と年金を両立しやすい環境が整っていくでしょう。
2025年度は月収が51万円を超えると年金がカット。減額されている人は少数
在職老齢年金は、働きながら年金を受け取ることができる制度ですが、その仕組みを知らずにいると、思わぬタイミングで年金が減額される可能性があります。とくに、2025年度の支給停止調整額「月51万円」を超えるかどうかが、ひとつの目安になります。
とはいえ、実際に支給停止の対象となっているのは受給者のうち16%程度にとどまり、大多数の人は減額を受けていません。収入の見込みや勤務時間、賞与のタイミングなどを工夫すれば、年金の減額を抑えながら働くことも十分に可能でしょう。
制度の仕組みをあらかじめ把握しておけば、収入と年金のバランスを自分なりに調整し、安心して定年後の働き方を選択できるでしょう。
出典
厚生労働省 在職老齢年金制度について
厚生労働省 在職老齢年金制度の見直しについて
内閣府 生活設計と年金に関する世論調査
e-Stat 政府統計の総合窓口 労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)平均結果の概要
日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
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