上場企業でも「早期退職」が増えているって本当!? 退職金も安くなるし収入もなくなるし…メリットはあるの?
本記事では、早期退職制度についてやそのメリット、早期退職後に生活できるのかについて解説します。
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上場企業でも早期退職が増えているって本当?
最近では上場企業においても、早期退職や希望退職を募る動きが目立つようになってきました。ある調査では、早期・希望退職の募集人数はここ数年増加傾向にあるとされています。かつては経営が厳しい企業に限定されていた印象のある制度ですが、現在では黒字企業であっても組織再編や事業の効率化を理由に実施されることも珍しくありません。
早期退職制度とは、企業が定年を迎える前の社員に対し、有利な条件を提示して退職の選択肢を与える制度のことです。企業の目的は、経営が悪化した際のリストラというよりも、将来の成長を見据えた事業構造の転換や組織の若返りであるケースが増えています。
もちろん、社員側にもメリットがなければ応じる人はいません。そのため、この制度では多くの場合、通常の退職金に特別加算金が上乗せされたり、次のキャリアを支援するための再就職サポートが提供されたりといった優遇が用意されています。
早期退職のメリット
早期退職制度は、企業と従業員の双方にとって複数のメリットがあります。まず、企業側の目的は人件費の削減です。
特に年功序列型の賃金体系を採用している企業では、年齢が上がるほど人件費が増加し、財務負担が重くなります。早期退職を促進することでコストを軽減し、その分を成長分野への投資や若手人材の採用・育成に振り向けることが可能になるのです。
加えて、ベテラン層の退職により若手の昇進機会が増え、組織の活性化や人材の流動性向上にもつながります。結果的に、社員のモチベーションやエンゲージメント向上にも貢献するのです。
また、個人にとってもセカンドキャリアへの移行を促すチャンスとなります。自らの意思で新たな挑戦に踏み出すことができるため、独立や再就職など次のステージを前向きに描くきっかけとなるでしょう。
さらに、早期退職者には退職金の割増が適用されるケースがあります。厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の1人あたり平均退職給付額は、表1の通りでした。
表1
| 退職事由 | 大学・大学院卒 (管理・事務・技術職) |
高校卒 (管理・事務・技術職) |
高校卒 (現業職) |
|---|---|---|---|
| 定年 | 1896万円 | 1682万円 | 1183万円 |
| 会社都合 | 1738万円 | 1385万円 | 737万円 |
| 自己都合 | 1441万円 | 1280万円 | 921万円 |
| 早期優遇 | 2266万円 | 2432万円 | 2146万円 |
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」を基に筆者作成
どの学歴においても、早期退職優遇制度を活用した方が退職給付額は最も高くなっています。
早期退職して老後の生活費は賄える?
早期退職制度で定年前に退職して老後の生活費は賄えるのでしょうか。ここでは、大学卒業後から仕事をして55歳で早期退職した場合を想定して計算してみましょう。
大学卒業の場合、表1より早期優遇でもらえる退職金の平均は2266万円です。
また、総務省統計局の「家計調査 家計収支編(2023年)」によると、単身世帯の消費支出は35歳~59歳までが月19万4438円、60歳以上の単身世帯の消費支出は月15万2743円でした。この金額で年金がもらえる65歳まで生活すると、2083万860円かかる計算です。この金額を退職金から引くと、残るのは182万9140円です。
次は残りの退職金で生活できるのか見ていきましょう。同資料によると、65歳以上の単身世帯の消費支出は月14万9033円でした。原則として、65歳以降は年金が受け取れます。
厚生労働省年金局の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和5年度末時点の厚生年金の受給者平均年金月額は14万7360円でした。このことから、平均的な家計収支の場合、毎月1673円の赤字になることが分かります。
毎月1673円の赤字の生活を続けると、残りの退職金182万9140円は約91年で底をつく計算です。65歳から91年以上生活することはないため、早期優遇の退職金で老後の生活費は賄えると考えられるでしょう。
ただし、早期退職する年齢が早かったり、病気やけがでお金を消費してしまったりすると、退職金や老齢厚生年金額、消費支出が変動し、必ずしも生活費が賄えるとは言い切れなくなることを念頭に置いておきましょう。
早期退職制度は退職金や再就職の優遇が受けられるケースがある
早期退職制度は、企業のコスト削減や組織改革の一環として導入されることが多い傾向ですが、従業員にとってもキャリアの再構築や退職金の上乗せなどの利点があるケースがあります。
試算からも、一定条件下では老後の生活費を賄える可能性があります。ただし、将来の出費や退職時期によって状況は変わるため、制度の内容と自身のライフプランを照らし合わせて、慎重に判断するようにしましょう。
出典
厚生労働省 令和5年就労条件総合調査 結果の概況 4 退職給付(一時金・年金)の支給実態 (2)退職事由別退職給付額(17ページ)
厚生労働省年金局 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 II. 厚生年金保険 (2)給付状況 表6 厚生年金保険(第1号) 受給者平均年金月額の推移(8ページ)
e-Stat政府統計の総合窓口 総務省統計局 家計調査 家計収支編 単身世帯 詳細結果表 2023年 <用途分類>1世帯当たり1か月間の収入と支出 表番号2 男女,年齢階級別 単身世帯・勤労者世帯
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
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