50代・年収800万円、夫婦の生活費は毎月35万円前後です。退職後は、貯金+退職金で「2000万円」あれば足りますか?
今回の想定は、50代夫婦、世帯年収800万円、現在の毎月の生活費は35万円ほど。公益財団法人生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(令和4年度)」によると、ゆとりある老後生活費は月額平均37万9000円必要というデータもありますので、老後生活の水準としては「ゆとりある」部類に入るでしょう。
この夫婦が退職した場合、「老後2000万円」で足りるのか、シミュレーションしてみましょう。
福本FP事務所 代表、広島県相続診断士 会長、寺院コンサルタント
外資系金融機関を退職後、ファイナンシャルプランナーへ転身。資産運用・ライフプラン・相続・終活と、お客さまの幅広いニーズにワンストップで対応。ミドル・シニア世代、寺院のお客さまのアドバイスを得意とする。人生は一度きり、「今も将来もどちらも楽しむライフプラン」を提案する。
目次
前提条件とシミュレーション
今回は以下のような前提でシミュレーションを行います。
●夫婦とも60歳で定年退職
●ただし60歳~65歳は年収300万円程度(夫婦合計)で継続就労
●退職金・貯金の合計は2000万円
●年金は65歳から受給(厚生年金+国民年金で夫婦合計月25万5000円想定)
●毎月の生活費は35万円を維持
●夫婦ともに90歳まで生きる想定
このような前提に基づき、老後の資金繰りを見ていきましょう。
【60歳~64歳】継続就労で収入を確保
60歳で定年を迎えても、再雇用制度などを利用すれば65歳まで収入を得られるケースや、定年が65歳以上の会社も増えてきました。ここでは夫婦で年間300万円(毎月25万円)の収入があると仮定します。
生活費が月35万円であるため、10万円×12ヶ月=年間120万円程度の赤字が発生します。そのため、この5年間で600万円の資産を取り崩す必要があります。
【65歳~69歳】年金+αの生活
65歳からは年金(月25万5000円)の受給が開始されますが、生活費の35万円をカバーしきれません。この間、年金以外の収入がない場合は毎月約9万5000円の赤字が発生し、年間114万円、5年で約570万円の取り崩しが必要となります。
この期間に追加で働くか、資産運用によって不足分を補うなどの対策があれば、赤字は軽減されるでしょう。
【70歳以降】年金生活の本番、ただし支出は増える可能性も
70歳を超えると、多くの人が完全な年金生活に入るでしょう。月25万5000円の年金に対して、生活費は35万円。月9万5000円の赤字が続けば、年間114万円、20年で2280万円が必要になります。
ここでひとつ大きな課題になるのが、インフレの影響です。仮に年2%の物価上昇が続いた場合、20年後には月35万円の生活費が50万円程度まで膨らむ計算になります。こうなると資産が急激に減ってしまうリスクが現実味を帯びてきます。
対策1:就労の継続
元気で働ける方は、70歳までの就労を検討してもよいでしょう。仮に夫婦合計で月15万円でも働いて収入を得られれば、年金と合わせて月40万円ほどの収入となり、生活費35万円に対して黒字になります。
金銭的な面では働ける限り就労継続するのがよいですが、健康状態や家族構成に加え、個人の生き方もありますので、万人が選択できるわけではありません。
対策2:早くから資産運用を開始する
仮にインフレが年2%で進行していく場合、預貯金のままでは資産の実質価値が目減りしていきます。少なくともインフレ率以上の利回りで運用しなければ、資産の「購買力」は維持できないということです。
預貯金に不安がある場合は資産運用によって増やしていくことを検討しましょう。
仮に60歳の時から1000万円を資産運用にまわし、10年間、年5%の利回りで運用できた場合、70歳時点では約1630万円になる計算です。そこからも5%の運用を継続しながら毎年114万円ずつ取り崩す場合、90歳になっても資産は枯渇しない計算となります(手数料、税金等考慮せず)。
もっと早くから運用ができれば、より大きな成果を期待できるでしょう。
まとめ:「2000万円で足りるか」は、人それぞれ
今回の試算から分かるのは、「2000万円ではまったく足りない」というわけではないものの、60歳で完全リタイアして何も手を打たなければ、将来的に資産が底をつく可能性があるということです。加えて昨今のインフレも無視できない状況ですので、収入が変わらなければ生活水準が下がってしまうことも考えられます。
一方で、
●60歳以降も収入を確保(再雇用・パートなど)
●70歳まで働いて年金を繰り下げる
●資産運用を行う
こうした選択を組み合わせれば、2000万円でも十分に現実的な老後を送ることができる可能性があることも事実です。
特に資産運用は、一般的に早く始めるほうが有利になります。自分たちの働き方、生き方に合った老後設計を始めてみてはいかがでしょうか。
出典
公益財団法人生命保険文化センター 2022(令和4)年度 生活保障に関する調査 第III章 老後保障 2.老後生活に対する意識 (5)ゆとりある老後生活費
執筆者 : 福本知輝
福本FP事務所 代表、広島県相続診断士 会長、寺院コンサルタント