退職金「2000万円」、一括で受け取るべき? それとも分割? 老後の安心と税金の“損しない選び方”とは?

配信日: 2025.08.30 更新日: 2025.10.21
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退職金「2000万円」、一括で受け取るべき? それとも分割? 老後の安心と税金の“損しない選び方”とは?
退職金は、一括で受け取る方法と分割で受け取る方法があり、受け取り方により適用される税制が異なります。今回は、退職金の受け取り方について、税金と社会保険制度に着目して解説します。
辻章嗣

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

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退職金の受け取り方と税金

退職金の受け取り方によって、適用される税制が異なります。
 

1. 一時金で受け取ったときは退職所得

退職金を一時金として受け取る場合は、退職所得として分離課税されます(※1)。退職所得の金額は、収入金額から退職所得控除額を除いた額の2分の1になります。
 
退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
 
退職所得控除額は、勤続年数に応じて図表1のように計算します。
 
図表1《退職所得控除額の計算》

勤続年数(N) 退職所得控除額
20年以下 40万円×N
(80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円+70万円×(N-20年)

(※1を基に筆者作成)
 
例えば、20歳から60歳までの40年間勤務し、退職金を一括で受け取った場合の退職所得控除額は、以下のとおりです。
 
退職所得控除額=800万円+70万円×(40年-20年)=2200万円
 
この場合、退職金が2000万円であれば、課税されることなく全額を受け取ることができます。
 

2. 退職金を分割で受け取ったときは公的年金等控除

退職金を分割で受け取る場合は、受け取った金額は雑所得として他の公的年金と合算し、総合課税されます(※2)。
 
公的年金などに係わる雑所得の金額は、公的年金などの収入金額から公的年金等控除額を差し引いた額になります。具体的には年齢区分に応じて、図表2の計算式で求められます。
 
図表2《公的年金等に係る雑所得の速算表》

年齢区分 公的年金等の収入金額の合計額 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満 ~60万円 0円
60万円~130万円 収入金額の合計額 - 60万円
130万円~410万円 収入金額の合計額×0.75- 27万5000円
410万円~770万円 収入金額の合計額×0.85- 68万5000円
770万円~1000万円 収入金額の合計額×0.95-145万5000円
1000万円~ 収入金額の合計額 - 195万5000円
65歳以上 ~110万円 0円
110万円~330万円 収入金額の合計額 - 110万円
330万円~410万円 収入金額の合計額×0.75- 27万5000円
410万円~770万円 収入金額の合計額×0.85- 68万5000円
770万円~1000万円 収入金額の合計額×0.95-145万5000円
1000万円~ 収入金額の合計額 - 195万5000円

(※2を基に筆者作成)
 
なお、公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1000万円を超える方の計算式は異なります。
 
例えば、65歳以上で退職金を分割で受け取る場合、退職金とその他の年金を合計した額が110万円未満であれば、公的年金等に係る所得額はゼロとなり課税されません。110万円を超え330万円未満であれば、収入合計額から110万円を控除した額が雑所得として課税されます。
 
2000万円の退職金を60歳から毎年110万円ずつ分割で受け取ると仮定すると、最初の5年間は他の公的年金を受給しなければ公的年金等の雑所得額は50万円、65歳以降は他の公的年金の受給額に110万円を加えた額から110万円を控除した額が、雑所得として課税されます。
 

退職金の受け取り方と社会保険制度

健康保険や介護保険の保険料は、前年の所得に応じて決定されます。また、健康保険や介護保険の自己負担割合も前年の所得に応じて決まります。
 

1. 退職金を一括で受け取った場合の社会保険制度

退職金を一括で受け取った場合、退職所得として分離課税されますので、その所得は翌年の社会保険料や自己負担割合に影響を与えません。
 

2. 退職金を分割で受け取った場合の社会保険制度

(1)社会保険料
国民健康保険料は世帯単位で算出され、世帯の人数(被保険者数)に応じた均等割額と、前年の所得に応じた所得割で構成されています(※3)。また、介護保険料は、被保険者の前年度の所得により、13段階に区分されています(※4)。
 
つまり、前年の所得額により、徴収される社会保険料の額は大きく変わります。
 
(2)社会保険の自己負担割合
国民健康保険の自己負担割合は、70歳以上75歳未満が2割、75歳以上が1割ですが、前年の所得が現役並みと判断されると3割負担となります(※5)。また、介護保険の利用者負担割合は基本1割負担ですが、前年の所得により2割または3割になる場合があります(※6)。
 
したがって前年の所得によっては、健康保険や介護保険を利用した際の自己負担割合が高くなる点に注意が必要です。
 

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まとめ

退職金を一括で受け取る場合は、収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引き、その半分が退職所得として分離課税されます。そのため、勤続年数が長い方は非課税となったり、課税されても徴収税額を抑えられたりすることがあります。
 
一方、退職金を分割で受け取る場合は、他の公的年金などと合算した額から、公的年金等控除額を差し引いた額が雑所得として総合課税されます。また、分割受取の場合、公的年金等控除額を差し引いた額が年間所得となるため、翌年の社会保険料や自己負担割合に影響を及ぼす点に留意する必要があります。
 

出典

(※1)国税庁 タックスアンサー No1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
(※2)国税庁 タックスアンサー No1600 公的年金等の課税関係
(※3)厚生労働省 国民健康保険の保険料・保険税について
(※4)厚生労働省 介護保険料等における基準額の調整について
(※5)厚生労働省 医療費の一部負担(自己負担)割合について
(※6)厚生労働省 給付と負担について(参考資料) 介護保険制度における利用者負担割合(判定基準)
 
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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