再雇用で「仕事は同じ、給与は30%減」…父は「仕事があるだけありがたい」と言うけれど、これって“違法”にならないのでしょうか? 定年後も「給与が変わらない」割合も確認
再雇用の場合、定年前と同じ仕事内容で給料が下がることもあるかもしれませんが、「同じ仕事で給料が下がること」は法的に問題はないのでしょうか?
本記事では、再雇用後の給料の変化や、定年前後で同じ仕事なのに給料が下がることの違法性について解説します。
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再雇用後の給料は下がるケースが多い
株式会社リクルート ジョブズリサーチセンター の「【基本報告書】シニア層の就業実態・意識調査 2023―個人編 60~74歳―」によると、定年前の給料を100とした場合、再雇用後の給料は「50~75%未満」とした人の割合が最も多く、全体の43.3%に上ります。
定年前と変わらない・上がったという「100%以上」の人は14.1%しかいませんので、ほとんどの人は再雇用後は給料が下がると言えるでしょう。
同一労働同一賃金と法律のしくみ
厚生労働省は、ガイドラインを通じて「同一労働同一賃金」の具体的な考え方を示しています。これは、正社員と非正規社員(パート、契約社員、嘱託社員など)が同じ仕事内容や責任を負っている場合には、不合理な待遇差を設けてはならないという指針です。
根拠となるのは「パートタイム・有期雇用労働法」第8条であり、企業は労働契約の形態にかかわらず、職務の内容や配置の変更範囲などをふまえて、賃金・手当・福利厚生といった待遇の合理性を説明する責任を負っています。
この原則の適用範囲は広く、基本給や賞与だけでなく、通勤手当、扶養手当、休暇制度などにもおよびます。ただし、全ての待遇を「完全に同一」にすることを求めているわけではありません。
仕事内容が異なる場合や、責任の範囲、将来的な配置転換の有無などに合理的な違いがある場合には、賃金格差も認められる余地があります。したがって「同一労働同一賃金」とは、形式的な雇用形態の違いではなく、実質的に仕事内容や責任が同じかどうかを基準に判断される仕組みと言えます。
最高裁の判決を見てみよう
再雇用後の賃金に関して大きな注目を集めたのが、「長澤運輸事件」です。
これは、定年後に嘱託社員として再雇用されたトラック運転手が、正社員時代と仕事内容がほぼ同じであるにもかかわらず、賃金が大幅に減額されたのは不当だとして訴えを起こしたものです。
最高裁は平成30年6月に、再雇用後の賃金が下がること自体はただちに違法ではないと判断しました。その理由として、定年後再雇用制度は高齢者雇用安定法の趣旨に基づき、希望者全員に雇用機会を提供する仕組みであり、必ずしも定年前と同じ処遇を保障するものではない、と位置づけたのです。
しかし同時に、最高裁は「労働契約法20条(当時、現在はパート・有期雇用労働法に統合)」に基づき、待遇差が合理的かどうかを具体的に検討する必要があると指摘しました。実際に判決では、精勤手当や住宅手当といった一部の手当の格差については不合理で違法と判断されています。
つまり、給与水準を引き下げること自体はただちに違法ではないと判断されたものの、手当や制度ごとの性質を無視した格差は許されない、という考え方が示されました。
この長澤運輸事件は、定年後再雇用の賃金設定における大きな指針となりました。企業は「年齢が高いから」「定年後だから」というだけで画一的に給与を下げるのではなく、仕事内容や責任に見合った説明可能な水準にすることが求められています。
一方で、労働者側も「同一労働同一賃金=完全に同じ給与」と誤解するのではなく、待遇差の合理性という観点から判断されることを理解しておく必要があります。
まとめ
定年後も同じ会社に残って再雇用で働き続ける人は多いですが、給料は定年前より下がるケースが一般的です。再雇用後の賃金が下がること自体は違法ではありません。とは言え、法律上「同一労働同一賃金」の原則があり、不合理な待遇差は禁止されています。
なお、再雇用後の給料に関して不安を感じた場合は、労働基準監督署や労働局に相談することも有効です。
出典
株式会社リクルート ジョブズリサーチセンター 【基本報告書】シニア層の就業実態・意識調査 2023―個人編 60~74歳―
厚生労働省 同一労働同一賃金ガイドライン
厚生労働省 不合理な待遇差に関する裁判所における判断
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー