30年勤めた会社を定年退職する夫、退職金1500万の受取方法を「一時金」と「年金」で悩んでいます。友人は「一時金は節税になる」と言っていましたが、どれくらいオトクなのでしょうか?
本記事では、受け取り方による税金の仕組みやメリット・デメリットを整理し、老後の生活に合わせた受取方法を考えるヒントを紹介します。
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目次
「一時金」と「年金形式」の税制の違いとは?
退職金の受け取り方によって、かかる税金の種類や計算方法は大きく変わります。本章では、一時金と年金形式、それぞれの税制上の扱いを整理してみましょう。
一時金の場合、退職金は「退職所得」として計算されます。ここで大きなポイントとなるのが「退職所得控除」です。控除とは課税対象から差し引ける額のことで、勤続年数が長いほど控除額は大きくなります。
さらに、控除後の金額を半分にしてから税金を計算する「2分の1課税」という優遇もあります。そのため、長く勤めて退職金がまとまった額であっても、課税される部分は意外と少なくなるのです。
一方、年金形式で受け取る場合は、この退職所得控除が使えません。代わりに「雑所得」として扱われ、公的年金等控除の対象になります。ただし、公的年金等控除は退職所得控除に比べて控除額が小さいため、課税所得が増えるケースが多いです。
また、受け取った退職年金は毎年の他の所得と合算して総合課税されるため、所得税や住民税だけでなく、国民健康保険料等の社会保険料の負担も増える傾向があります。
30年勤続・退職金1500万円の場合の手取りシミュレーション
仕組みを知っても、「結局自分の場合はいくら残るのか」が一番気になるところでしょう。そこで本章では、勤続30年・退職金1500万円を例に、退職所得控除額を計算してみます。
退職所得控除は勤続年数によって決まり、30年勤続の場合は次のように計算されます。
勤続20年までは:40万円×20年=800万円
20年を超える分は:70万円×10年=700万円
合計控除額=1500万円
退職金1500万円と控除額が同額なので、課税対象額はゼロです。つまり、一時金で受け取る場合は所得税や住民税はほとんどかからず、手取りはほぼ満額1500万円になります。一方、年金形式で10年分割し毎年150万円を受け取る場合は、公的年金等控除を差し引き、雑所得の課税対象になります。
例えば65歳未満なら控除後の課税対象額は毎年約85~90万円となり、所得税(5%+復興特別所得税2.1%上乗せ)と住民税(10%)を合計した税率約15%前後で計算すると、1年あたりの税負担は13万円前後です。
最終的な手取りは137万円程度×10年=約1370万円となり、一時金と比べて年間130万円ほど少なくなる可能性があります。もちろん、実際には住んでいる地域の税率や他の収入、公的年金額によって負担は変わります。しかし大まかなシミュレーションでも、一時金のほうが大幅に有利なことが分かります。
メリット・デメリットを生活設計の視点から考える
一時金と年金形式は、数字上の損得だけでなく、老後の暮らし方にも影響します。ここでは、それぞれの受け取り方が生活設計にどんなメリット・デメリットをもたらすのかを見ていきましょう。
一時金のメリットは、まとまった資金を自由に使えることです。住宅ローンの返済やリフォーム、老後資金の運用など、目的に合わせて活用できます。また、税負担が少ない点も大きな魅力です。
ただし、一度に大金を手にすると管理が難しく、無計画に使ってしまうリスクもあります。投資や運用で失敗すれば、資産を減らしてしまう恐れもあるでしょう。
年金形式のメリットは、毎年決まった額が入るため生活設計がしやすいことです。家計に安定収入が加わるので、使い過ぎを防ぐ効果もあります。また、退職金の種類によっては運用益が上乗せされる場合もあります。
ただし、税負担が重くなりやすく、将来のインフレや制度変更、会社の信用リスクなどの不確定要素も考慮が必要です。つまり、「節税効果を最大限にしたいなら一時金」「生活の安定や資金管理を優先するなら年金形式」を選ぶほうがいいといえます。
退職金は自分に合った受取方法を選ぼう
30年勤続で退職金1500万円の場合、一時金なら退職所得控除が同額となり、税金はほぼかからず満額を受け取れます。一方、年金形式では課税対象となり、手取りは減る傾向があります。
ただし、節税面では一時金が圧倒的に有利ですが、生活資金を分散して受け取りたい人には年金形式も選択肢となります。制度によっては併用も可能なので、老後のライフプランや他の収入を考えながら、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
