来年受け取る退職金、「一括だと税金が12万円」「分割だと800万円以上」と、税金の差が大きくて驚いています。なぜこんなに差が出るのでしょうか?
実際に、一括受け取りなら税金は十数万円程度で済むのに、分割だと数百万円を超えるといった差が出ることもあります。では、なぜこれほど大きな違いが生じるのでしょうか。
本記事では、退職金にかかる税金の仕組みを分かりやすく解説し、一括受け取りと分割受け取りの違いを整理します。
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目次
退職金の税制優遇と「退職所得控除」
退職金には、通常の給与所得よりも大きな税制上の優遇が用意されています。その代表が、「退職所得控除」です。
これは勤続年数に応じて一定額が所得控除になる仕組みで、例えば勤続年数が20年以下の場合は「40万円×勤続年数」、20年目超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」という計算式で算出されます。勤続年数が長いほど控除額は大きくなり、課税される額は少なくなります。
さらに退職所得の課税額は、(退職金総額-退職所得控除額)× 1/2 で計算されます。つまり控除後の金額の半分しか課税対象にならないため、非常に大きな優遇措置といえます。
退職金の金額や勤続年数によって控除額が大きくなるため、課税対象額が圧縮され、結果として税負担が軽くなる場合もあります。こうした優遇が、一括受け取りを選択した場合に税金が少なくて済むといわれる理由の一つです。
一括受け取りと分割受け取りで異なる税金の扱い
退職金の受け取り方法によって、税金の計算方法や優遇措置の有無が大きく変わります。一括で受け取る場合と分割で受け取る場合では、適用される税制が異なるため、最終的な税負担に大きな差が出るのです。本章で、両者の違いについて事例をもとに整理してみましょう。
一括受け取りの場合(退職一時金)
退職金を一括で受け取る場合、前述の退職所得控除と2分の1課税の仕組みが適用されます。例えば退職金が2500万円で勤続年数が38年の場合、控除額は2060万円となり、課税対象となる金額は440万円でその半分の220万円が課税所得となります。
これにより税額は12万2500円に抑えられ、長期勤続者ほど控除の恩恵が大きくなるため、一括受け取りのメリットは顕著になります。
分割受け取りの場合(年金形式や複数回払い)
退職金を年金形式などで分割受け取りにすると、「退職所得」ではなく「雑所得」として扱われ、退職所得控除や2分の1課税の優遇は原則利用できません。雑所得は他の収入と合算されるため税率が高くなり、結果として税負担が増えることがあります。
特に所得水準が高く、高い税率帯で課税される場合には、20年間で累計800万円超の税金負担となるケースもシミュレーション上存在します。
一方で、一括受け取りは退職所得控除や2分の1課税の特例により数十万円程度の税負担となるので対照的です。ただし、実際の税額は年齢や他の収入状況、控除適用額により大きく変動します。
なお、同じ会社からの退職金を5年以内に複数回受け取ると、控除は1回分しか使えません(5年ルール)。分割受け取りは一見有利に思えても、税負担が重くなるケースがあるため、慎重な判断が必要です。
なぜこれほど大きな差が生まれるのか
一括受け取りと分割受け取りで税額に大きな差が生まれる理由は、主に3つあります。
第一に、退職所得控除の適用の範囲が異なる点です。一括受け取りでは勤続年数に応じた大きな控除があり課税対象額は大きく減少します。一方、年金形式などの分割受け取りは雑所得として扱われるため、退職所得控除が適用されないケースが多く、課税対象額が増えることになります。
第二に、2分の1課税の適用有無です。一括受け取りでは、退職所得控除後の金額に対し2分の1課税の特例が適用されますが、分割受け取りでこの特例は一般的に適用されず、その場合は優遇が受けられません。
第三に、課税方式の違いです。退職金が退職所得として扱われる一括受け取りの場合は分離課税として扱われ、他の所得とは合算されません。
一方で、年金形式などで雑所得として扱われる分割受け取りの場合は総合課税の対象となり、給与や他の年金などの所得と合算されて累進課税が適用されることが多いため、税負担が増加する可能性があります。このように、課税方式の違いが、最終的な税額に大きな影響を与えることもあるのです。
これらの要因により、一括受け取りと分割受け取りで税負担が大きな違いが生じる場合があります。ただし、実際の金額差は勤続年数や退職金額など、それぞれの状況によって変わってきます。
判断のポイントと注意点
しかし、必ずしも「一括が得」「分割は損」と単純にいえるものではありません。分割で受け取る退職金は年金のように計画的に受け取れるため、家計の見通しを立てやすい点がメリットです。
ただし、雑所得として他の所得と合算される総合課税の対象となるため、税率が高くなる場合があります。さらに、受給中に本人が亡くなると未受給分が引き継げないケースもあります。
一方、退職金を一括で受け取る場合は、その資金を自由に使えるのがメリットです。ただし、自分で運用管理をする必要があり、失敗すれば老後資金が不足するリスクもあります。
さらに、退職金の受け取り方法は、会社の規定によって選択できるかどうかが異なります。退職一時金としてしか支給されない企業もあれば、企業年金の制度として分割受け取りが前提になっている場合もあります。
そのため、退職金の受け取り方法を決める際には、退職金の総額、勤続年数、退職後の収入見込み、生活資金の必要性などを踏まえてシミュレーションすることが重要です。場合によっては税理士などの専門家に相談し、自分にとって最も有利で安心できる方法を選ぶのが望ましいでしょう。
退職金の受け取り方を比較して最適な方法を選ぼう
退職金の受け取り方によって、税金に大きな差が生まれるのは事実ですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
大切なのは、「どちらが得か」ではなく、「自分にとってどちらが合っているか」を見極めることです。税負担だけでなく、資金の使い道や管理のしやすさ、ライフプランとの整合性も含めて検討しましょう。
不安がある場合は、税理士などの専門家に相談し、自分に合った選択をすることが将来の安心につながります。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
国税庁 退職金を分割支給した場合の源泉徴収税額の計算
国税庁 No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
監修 : 高橋庸夫
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