「老後2000万円問題」と言いますが、自分はそれほど必要とは思えません。年金「月15万円」もらえれば、貯蓄ゼロでも生活していけますよね?
本記事では、統計データをもとに高齢無職世帯の実態を見ながら、月15万円の年金だけで生活できるのか、現実的な視点で考えていきます。
ファイナンシャルプランナー
FinancialField編集部は、金融、経済に関する記事を、日々の暮らしにどのような影響を与えるかという視点で、お金の知識がない方でも理解できるようわかりやすく発信しています。
編集部のメンバーは、ファイナンシャルプランナーの資格取得者を中心に「お金や暮らし」に関する書籍・雑誌の編集経験者で構成され、企画立案から記事掲載まですべての工程に関わることで、読者目線のコンテンツを追求しています。
FinancialFieldの特徴は、ファイナンシャルプランナー、弁護士、税理士、宅地建物取引士、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、DCプランナー、公認会計士、社会保険労務士、行政書士、投資アナリスト、キャリアコンサルタントなど150名以上の有資格者を執筆者・監修者として迎え、むずかしく感じられる年金や税金、相続、保険、ローンなどの話をわかりやすく発信している点です。
このように編集経験豊富なメンバーと金融や経済に精通した執筆者・監修者による執筆体制を築くことで、内容のわかりやすさはもちろんのこと、読み応えのあるコンテンツと確かな情報発信を実現しています。
私たちは、快適でより良い生活のアイデアを提供するお金のコンシェルジュを目指します。
「老後2000万円問題」の前提とは
「老後2000万円問題」は、2019年に金融庁金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書で話題となったものです。
この報告書では、標準的な高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の二人暮らし)をモデルに、生活費と収入の差額が毎月約5万円の赤字になると試算しました。この赤字を20~30年取り崩すと、合計で約1300万~2000万円不足するとされました。
しかし、この試算にはいくつかの前提があります。生活支出は一定と仮定され、さらに、インフレや物価変動、医療・介護費の増加も基本的に考慮されていません。標準的で平均的なものとして設定されており、すべての世帯に当てはまるわけではありません。
そのため、一般に「老後2000万円必要」と単純化して語られることがありますが、この数字はあくまで平均モデルの試算であり、前提条件に大きく依存しています。
高齢無職世帯の最新データと年金だけでの生活
では、実際の高齢世帯はどのくらいの支出をしているのでしょうか。
総務省統計局「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は月約15万円、夫婦高齢者無職世帯では約25万7000円と報告されています。夫婦高齢者無職世帯の総支出(消費支出+非消費支出)は月約28万7000円、高齢単身無職世帯の総支出は約16万2000円です。
一方、収入面では、65歳以上単身無職世帯の可処分所得は月平均約12万1000円、夫婦高齢者無職世帯では約22万2000円となっており、収支差は単身世帯で月約2万8000円、夫婦世帯で約3万4000円の赤字が生じる可能性があります。
つまり、月15万円の年金だけで生活する場合、単身世帯では消費支出はギリギリ賄える可能性があるものの、非消費支出分や、医療・介護費の増加分などを含めると赤字が膨らむおそれがあります。夫婦世帯では、平均的な支出が25万円を超えているため、毎月の赤字リスクが残ります。
月15万円の年金だけで生活するのは楽観的な見方
統計データを踏まえると、月15万円の年金だけで安心できると考えるのはやや楽観的です。その理由のひとつに、税金や社会保険料などの非消費支出が挙げられます。65歳以上の無職世帯では、これらの費用だけで月1万~3万円ほどかかる場合があり、年金収入がそのまま手取りになるわけではありません。
さらに、老後には住宅の修繕費や家電買い替え、冠婚葬祭費、医療・介護費などの非定期的支出も発生します。また、公的年金の給付額は勤務年数や給与水準などによって異なり、将来的な制度改正や給付水準の変動リスクもあります。統計はあくまで平均値であり、地域差や住宅状況、趣味・交際費の違いによっても支出は大きく変わります。
したがって、年金15万円だけで十分と考えるには、かなり切り詰めた生活を前提にする必要があると考えられるのです。
まとめ:現実的な老後資金の考え方
統計データを踏まえると、高齢無職世帯の消費支出は単身で月15万円前後、夫婦で25万円前後が一般的です。可処分所得との差額や非消費支出を加味すると、平均的には毎月数万円の赤字が生じる可能性があります。
したがって、「年金15万円だけで貯蓄ゼロでも安心」という考え方は楽観的であり、余裕を持った見積もりが必要です。現実的には、老後に受け取る年金額を具体的に把握し、生活費や医療・介護費、突発的支出を含めて支出を見積もることが重要です。
その上で、収入と支出のギャップを把握し、必要に応じて貯蓄、運用、資産取り崩し、副収入などを組み合わせて計画を立てることが安心です。インフレや制度変化のリスクも考慮し、余裕ある資金バッファを持つことで、思わぬ赤字を避けることができるでしょう。
出典
金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(10ページ、16ページ)
総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要 II 総世帯及び単身世帯の家計収支 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 表2 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)及び65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 -2024年-(19ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー