夫から退職金「2000万円」を使って定年後はぜいたくに世界一周旅行へ行こうと言われました。うれしいのですが、2人の年金20万円で老後は暮らしていけるでしょうか?
もし、旅行に退職金をすべて使ってしまい、その後の収入が夫婦2人分の年金で月20万円という前提だとしたら、老後は暮らしていけるのでしょうか。今回は、65歳以上の夫婦世帯の家計収支データから「年金20万円」で暮らせるのかを改めて検証します。
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年金月20万円だけでは難しい? 65歳以上夫婦世帯の実態
まず、65歳以上の夫婦のみ無職世帯における1ヶ月の家計収支を確認しましょう。総務省統計局の「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」によれば、この世帯の1ヶ月あたりの実収入は25万2818円、そのうち社会保障給付(主に年金)が22万5182円を占めています。
一方、支出の合計は28万6877円で、消費支出が25万6521円、税金・社会保険料などの非消費支出が3万356円という内訳です。このデータから、月額で約3万4000円の赤字が生じており、収入だけで支出をまかなうのは難しい状況といえます。
この世帯の収入が「年金月20万円」のみを想定した場合を改めて考えると、その収入は実際の平均収入よりも少ない上に、平均的な生活支出と同等であれば赤字幅はさらに広がる可能性があります。
実際に22万5000円ほどが年金などである平均世帯でも支出をカバーできておらず、月20万円ではなお厳しいという現実が浮かび上がります。
もちろん、住居費が極端に低い、あるいは医療・介護の出費がほとんどないという条件であれば、支出を抑えられる可能性はあります。ただし、上記のデータでは「住居費1万6432円」と比較的低めに計上されており、賃貸住居で家賃が月5万円以上かかるケースなどではさらに支出が増えることが想定されます。
また、この平均には将来的に想定される介護費用などが十分反映されていない可能性もあり、余裕をもった設計が必要です。つまり、退職後に年金のみを月20万円受給し、それで平均程度の支出水準を維持するという計画は、かなり余裕のない状態であるといえます。
むしろ、支出を大幅に抑えるか、年金以外の収入や貯蓄を取り崩す余地を残しておく必要があります。
退職金2000万円を使ってしまった場合、その後の生活資金はどうなるか
仮にご夫婦が退職金2000万円を旅行費用などに使い切ったと仮定します。その後の収入が月20万円(年240万円)という想定のもとでは、先ほどの平均世帯の支出水準(年約344万円=月約28万7000円×12ヶ月)と比較すれば、年に約104万円の赤字が出る計算になります。
この赤字をカバーできるだけの資金が残っていないとすれば、生活設計上は非常にリスクが高いと言わざるを得ません。仮に支出を平均よりも抑え、年間支出を240万円に落としたとすれば、年金収入と収支はギリギリ均衡します。
しかしこの場合でも、介護や住み替え、大きな医療出費などの突発的な支出が発生すれば、貯蓄や退職金残高からの切り崩しが不可避となるでしょう。さらに、退職金を全額旅行費用に充ててしまった場合、生活費を支えるための予備金がないという点で、精神的・実務的な不安が残ります。
したがって退職金を「ぜいたくな世界一周旅行」に全額充てることは、夢としては魅力的ですが、老後生活の基盤を年金月20万円のみで支える前提としては、かなり慎重になるべきといえます。
まとめ:夢と老後の安心を両立する資金設計を
退職金を活用し、定年直後に長年の夢である世界一周旅行を実現することは、人生において大きな喜びとなるでしょう。
しかし、その後の生活を月20万円の年金だけに頼るという前提は、今回参照したデータが示す限りでは非常に薄氷を踏む設計と言わざるを得ません。特に、65歳以上の夫婦のみ無職世帯においては、平均的な収入と支出でさえ毎月約3万4000円の赤字が発生しているという現実があります。
そのため、旅行を楽しむと同時に老後の安心を確保するためには、支出を可能な限り抑える設計をとること、退職金の一部を生活基盤や予備費として残すこと、そして場合によっては再就労や収入補てんを視野に入れておくことが重要です。
具体的には、退職金のうち旅費に充てる割合を限定して残りを運用または貯蓄しておくこと、住居費を抑えた物件を選ぶこと、医療・介護リスクに備える保険を準備しておくことなどが考えられます。
このように、「夢」と「安心」を両立させるためには、あえて全額を旅行に振り向けるのではなく、「老後資金としての最低限ライン」を明確にし、それを守った上で旅行に使える資金を捻出するというバランスのとれた設計が求められます。老後の暮らしを見据え、しっかりと準備を進めていきましょう。
出典
総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要 II 総世帯及び単身世帯の家計収支<参考4>65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 表2 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)及び65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 -2024年-(19ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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