70代でもパートを続ける母。「年金だけ」では“生活が苦しい”のでしょうか? 老後の「平均年金額・支出」を確認
本記事では、70歳を過ぎても働いている人の割合や、働いて収入を得ないと年金だけで生活するのは厳しいのか、収支などを考えてみますので参考にしてください。
FP2級
70歳以上になっても働き続ける人の割合は?
内閣府が公表している「令和7年版高齢社会白書」(以下、内閣府調査)によれば、図表1のとおり、令和6年時点で70歳から74歳の人の就業率は35.1%です。実に3人に1人以上の人が何らかの仕事を持っており、その割合は年々上昇しています。
図表1
内閣府 令和7年版高齢社会白書
また、年金受給開始年齢である65歳から69歳の時点での就業率は実に53.6%です。このデータを見る限り、年金が受給できるようになっても半数以上の人は働き続けていることになります。
ただ、健康寿命に差し掛かる75歳以上になると、就業率は12%まで一気に減少します。つまり老後になっても「働けるうちは働く」ことがかなり多いのです。
老後も働かないと生活できないのか?
年金受給開始後も、働けるうちは働く人が多いようですが、それは経済的な理由なのでしょうか。そこで年金だけでは暮らせないのか、会社員だった夫が亡くなり、妻だけになった持ち家の単身世帯で簡単に試算してみましょう。
まず、受け取る年金額は厚生労働省が「令和7年度の年金額改定について」で推計した「多様なライフコースに応じた年金額」をもとに考えてみます。このデータによれば、専業主婦の期間が長かった(国民年金第3号被保険者期間中心の)女性の場合、老齢年金受給額は月7万6810円です。
夫が亡くなっているのであれば、遺族年金も受給できますが、その額は夫の報酬比例部分の4分の3になります。
この推計では、厚生年金期間中心の男性の報酬比例部分は10万4786円となることから、その4分の3の約7万8000円を遺族年金受給額と仮定します。つまり、遺族年金も併せた妻の年金受給額は7万6810円+約7万8000円=約15万5000円と想定可能です。
一方、総務省の家計調査報告によると、図表2のとおり、65歳以上の単身無職世帯の平均月消費支出は14万9286円、非消費支出1万2647円を含めて月約16万2000円になります。
図表2
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編) 2024年(令和6年)平均結果の概要
年金受給額約15万5000円に対し、支出が約16万2000円とすると、収支トントンまたは多少の赤字となります。
さらに、月々の生活費とは別に、万一の備えとして、急な出費や介護費用などで500万円以上は余裕を持っておきたいところです。そのため、貯蓄などで月々の不足額や一定の備えを賄えない場合、専業主婦期間が長かった妻は、年金だけで生活していくのは少し厳しいでしょう。
そうなれば、老後に可能な限り働き続けるのも、現実的な選択肢なのかもしれません。
働く目的は経済的な問題だけではない
ただ、ここまでの試算は1つの例に過ぎません。受給可能な年金額や必要な生活費については、個人によって大きな差があり、おのおのの状況に違いがあるでしょう。実際に内閣府調査の60歳以上の人へのアンケートでは、65%以上の人が「経済的な暮らし向きについて、それほど心配がない」と回答しています。
また、収入を伴う仕事をしている70歳から74歳の女性の働いている理由は、図表3のとおり「収入のため」と答えている人は全体の4割程度です。むしろ「健康のため」「仕事が面白い」「友人や仲間が得られる」といった経済的な理由以外の動機が、60歳から69歳に比べ多くなっています。
図表3
内閣府 令和7年版高齢社会白書 高齢者の経済生活をめぐる動向について
もちろん、経済的な理由から、やむを得ず老後も働いている人もいるでしょうが、それ以外のポジティブな動機で働いている人も多いことは理解しておくべきでしょう。
まとめ
今回は、70歳を過ぎるとどれくらいの人が働いているのか、年金だけの生活では厳しいのかなど、夫が亡くなった妻だけの単身世帯を例に考察してみました。70歳過ぎても働いている母親を見ると、子どもが経済的な側面を心配するのも無理はありません。
しかし、老後に働き続ける理由は人それぞれであり、生きがいのために働いている人も少なくありません。母親のことが気になるのであれば、働いている理由を聞いてみながら、子どもとしてできる支援を考えてみてはいかがでしょうか。
出典
内閣府 令和7年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要
執筆者 : 松尾知真
FP2級



