「貯蓄2000万円」の父が“60歳で退職”を決意…「もう働く意味がない」とのことですが、定年が“65歳まで”なら、万一のために仕事を続けるべきですよね? 老後の収支も確認
一方、すでに2000万円程度の貯蓄があり、住宅ローンを完済、子どもが独立しているような60歳前後の人は、「本当に65歳まで働く必要があるのか」「無理をしてまで働く意味はあるのか」と疑問に思うのも自然なことかもしれません。
本記事では、一定の貯蓄がある人が65歳まで働くべきかどうかを考えていきます。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
65歳まで働くほうがよいとされる3つの理由
まず、働ける状態であるならば、65歳まで何らかの形で働くことをすすめられる理由について整理しておきましょう。
1つ目は、寿命が延び、老後期間が想像以上に長くなっていることです。令和6年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性は87.13歳となっています。60歳で退職した場合、その後の人生は20年、30年と続く可能性があるのです。老後は「短い余生」ではありません。長い期間を経済的にどう支えるかは非常に重要なテーマになります。
2つ目は、ゆとりある生活を維持するための収入確保です。貯蓄2000万円は安心材料ではありますが、老後の生活費、医療費、介護費用、さらには物価上昇の影響を考えると、万全とはいえません。勤務先からの給与などの収入がある間は、貯蓄を取り崩さずに済むため、結果として将来の選択肢を広げることができます。
3つ目は、年金の受給開始までの「空白期間」を埋められることです。老齢年金の受給開始は原則65歳からです。60歳で完全に仕事を辞めると、5年間は年金収入がなく、生活費は貯蓄が頼りになります。この期間に収入があるかどうかで、65歳以降の安心感は大きく変わります。
「貯蓄があるからすぐ辞めてよい」とは限らない
「すでに2000万円もあるなら、もう十分ではないか」と考える人も少なくないでしょう。しかし、貯蓄があることと、老後の安心が約束されていることは同義ではありません。
仮に夫婦2人で年間300万円の生活費がかかるとすると、20年間で6000万円、25年間で7500万円が必要になります。年金収入を差し引いても、想定外の支出が重なれば、貯蓄は思った以上のペースで減っていきます。特に医療や介護に関わる費用は、事前に正確に把握するのが難しい支出です。
また、働くことで得られるのは金銭だけではありません。仕事を通じて社会と接点を持つことができ、生活リズムや精神的な安定を得られます。
退職後に「時間を持て余してしまった」「思った以上に気力が落ちた」と感じる人がいるのも事実です。こうした点を踏まえると、「貯蓄があるからすぐ辞める」という判断は必ずしも最善とはいえません。
フルタイムにこだわらず柔軟に働くという選択
体力や健康に不安がある場合は、無理に65歳までフルタイム勤務を続ける必要はありません。65歳までの雇用確保措置は、働くことを強制する制度ではなく「働きたい人が選択できる制度」です。
体力に自信がない場合や、仕事の負荷を重く感じる場合は、時短勤務、週3~4日の勤務、業務内容を限定した働き方などを検討するのもよいでしょう。収入は減るとしても、貯蓄を守りながら生活費の一部を賄える点は大きなメリットです。
貯蓄が多くても、働き続けることを考えておこう
貯蓄2000万円は、老後を考えるうえで心強い土台ではあります。しかし、それをできるだけ長い期間温存できるかどうかは、60代前半の過ごし方に大きく左右されます。働ける余力があるうちは、無理のない形で働き続けることを考えてみてはどうでしょうか。
その上で、自分のタイミングで引退を選べる状態をつくることが、これからの時代における賢明な選択といえるでしょう。
出典
厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~
厚生労働省 令和6(2024)年簡易生命表の概況
執筆者 : 小川ひろ
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
