「退職金の一部で小さなカフェを始めたい」と言い出した父。母は「この年になってそんなリスクは取れない」と反対しています。定年後の“自営業デビュー”は、本当に現実的な選択なのでしょうか?
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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平均余命と高齢者の就業状況
日本人の平均余命は、令和6年簡易生命表(※1)によれば、65歳男性で19.47年、女性が24.38年となっています。これに合わせて、国では「人生100年時代」に向けた施策(※2)を推進しています。
また、高齢者の就業率も年々上昇しており、グラフ1のとおり、65~69歳の就業者の割合は52.0%、70~74歳で34.0%、75歳以上でも11.4%となっています。
さらに、高齢者の就業状況をグラフ2でみると、年齢が高くなるほど、雇用者に比べて自営業者の割合が高くなっており、75歳の男性では逆転していることが分かります。
したがって、退職後にも働き続けることは一般的であり、自営業を選択して、より長く働くことを考えることは合理的といえるでしょう。
老後の家計状況を見積もる
老後の生活では、老齢年金が主な収入源となります。したがって、老後の家計の支出を老齢年金で賄うことができれば、老後の生活は安泰といえるでしょう。
ところが、全国民が受給対象となる老齢基礎年金は、20歳から60歳まで保険料を払い込んだ場合でも年額83万1700円(令和7年度額)(※4)にとどまり、月額にすると1人あたり7万円弱です。国民年金のみに加入する自営業者の方などは、ここから税金と健康保険料などが差し引かれた額で生活することになります。
一方、会社員であった方は、老齢厚生年金が上乗せ支給されますが、その額は現役時代の報酬額と勤続年数により決まります。
したがって、多くの高齢者世帯では、毎月の生活費を老齢年金だけで賄うことが難しく、その場合は働いて収入を得ることや、それまでに蓄えた金融資産を切り崩して生活することになります。
老後の働き方を考える場合は、以下の手順で老後の収支を見積もることから始めましょう。
(1)老齢年金の見込み額を把握し、図1を参考に、生活費に充当できる毎月の年金額を確認しましょう。税額や社会保険料が不明の場合は、収入から1~2割を差し引いた額を手取り額の目安とするとよいでしょう。
(2)毎月の生活費と、年に数回支出する経費を把握し、(1)で確認した年金の手取り額と比較して、図2を参考に年間収支を確認しましょう。
(3)毎年の収支とは別に、自動車の買い替えや自宅のリフォーム費用などのイベント支出を見積もる必要があります。
(4)退職時点で保有している金融資産(退職金を含む)から、(3)で見積もったイベント支出を差し引き、残った金額を(2)で確認した年間収支の不足額で割って、資産が何年もつか確認しましょう。
この過程で、(4)の計算結果により、夫婦が100歳を迎えるまで金融資産を維持できるようであれば、まずは一安心です。ただし、病気になった場合の医療費や介護費用などは含まれていないため、注意が必要です。心配な場合は、(3)の段階で、医療費や介護費用などもイベント経費同様に組み込んでおくとよいでしょう。
そして、この段階で老後資金に不足が生じることが分かれば、退職後も働いて収入を得て、その不足分を補う必要があります。あらかじめ収支を見積もっておくことで、どの程度の収入を得る必要があるのかを把握することができるでしょう。
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会社員と自営業の違い
退職後に働いて収入を得る方法として、会社員として働く場合と、自営業を始める場合の違いについて考えてみましょう。
1. 会社員として働く
会社員として働くことができれば、毎月の収入額をある程度把握することができます。また、社会保険の適用を受けることができれば、健康保険料を事業主と折半して納めることができるとともに、老齢厚生年金を上乗せすることも可能になります。
一方で、給与収入が高い場合には、在職老齢年金制度の適用を受け、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されることがありますので、注意が必要です(※6)。また、就業できる年齢は会社の制度や方針により決まるため、長期間勤務することは難しい場合もあります。
2. 自営業を始める
自営業を始める場合は、一般的に開業資金や商品の仕入れなどの初期費用が必要になります。そのため、開業時にまとまった支出が見込まれるほか、毎月の生活費に充てられる金額は、収入から必要経費を差し引いた後の金額となるため、将来の収支を見積もることが難しくなります。
また、国民健康保険などの社会保険料を全額自己負担する必要があります。
一方で、収入が多くても在職老齢年金制度が適用されず、老齢厚生年金を全額受給することができる点と、事業が順調に推移すれば年齢にとらわれず長く仕事を続けることができる点が、自営業の長所といえるでしょう。
老後の夢をかなえるためには
退職後、健康で充実した人生を送ることは非常に大切です。そのために、長年の夢であった「小さなカフェを始める」ことも、検討に値する選択肢といえるでしょう。
一方で、若いころとは違い、やり直しが難しい場面があることも自覚しなければなりません。
そこで重要なことは、老後の生活に必要な経費を見積もったうえで、自営業を始めるために必要な開業資金を捻出できるかどうかです。これが、最低限の条件となります。加えて、経済的な裏付けのある事業計画を作成し、事業を継続できるかどうかを見積もる必要もあります。
そして、万が一、事業に行き詰まった場合には、大きな損失を被る前に、事業の中断を決断することも忘れてはなりません。
以上のような経済的裏付けと、事業に対する覚悟があれば、退職後の仕事として自営業を始めることも、選択肢の一つとして考えてよいでしょう。
まとめ
人生100年時代を迎え、退職後に第二の人生を始めたいと考える人も少なくありません。その選択肢の一つとして、自分の夢をかなえるために自営業を始める人もいるでしょう。自営業は、会社に再就職するよりも長く働けるというメリットがある一方で、老後の収支を見積もりにくいというデメリットもあります。
自営業を始めるにあたっては、老後の生活費の収支を見積もるとともに、金銭的な裏付けのある事業計画を立てたうえで始めるようにしましょう。
出典
(※1)厚生労働省 令和6年簡易生命表の概況
(※2)厚生労働省 「人生100年時代」に向けて
(※3)内閣府 令和6年版高齢社会白書 就業・所得
(※4)日本年金機構 老齢年金
(※5)特定非営利活動法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会) 便利ツールで家計をチェック
(※6)日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士



