更新日: 2019.12.30 その他老後

老後のお金に無頓着な夫。離婚したほうが良いかな?

執筆者 : 寺門美和子

老後のお金に無頓着な夫。離婚したほうが良いかな?
【ご相談内容】
45歳のB子さん。夫は3歳年上の48歳で、仕事は洋食屋の二代目。地元のお祭りの世話役をしており、年1回のお祭りなのに、しょっちゅう会合だといっては出掛けます。趣味はサーフィンとゴルフ。その後も飲み会です。
 
子どもは男の子が一人。大学生になり、寮で生活をしています。夫は「子どもの学費のめどもついたな、あとは気楽に生きよう」と言いますが、老後のお金が心配です。
 
B子さんは「老後は2000万円必要なのですよね? そんなに貯金がないのですが、大丈夫でしょうか。今のうちに離婚したほうが良いのでは?」と相談にきました。
 
寺門美和子

執筆者:寺門美和子(てらかど みわこ)

ファイナンシャルプランナー、相続診断士

公的保険アドバイザー/確定拠出年金相談ねっと認定FP
岡野あつこ師事®上級プロ夫婦問題カウンセラー
大手流通業界系のファッションビジネスを12年経験。ビジネスの面白さを体感するが、結婚を機に退職。その後夫の仕事(整体)で、主にマネージメント・経営等、裏方を担当。マスコミでも話題となり、忙しい日々過ごす。しかし、20年後に離婚。長い間従事した「からだ系ビジネス」では資格を有しておらず『資格の大切さ』を実感し『人生のやり直し』を決意。自らの経験を活かした夫婦問題カウンセラーの資格を目指す中「離婚後の女性が自立する難しさ」を目のあたりにする。また自らの財産分与の運用の未熟さの反省もあり研究する中に、FPの仕事と出会う。『からだと心とお金』の幸せは三つ巴。からだと心の癒しや健康法は巷に情報が充実し身近なのに、なぜお金や資産の事はこんなに解りづらいのだろう?特に女性には敷居が高い現実。「もっとやさしく、わかりやすくお金や資産の提案がしたい」という想いから、FPの資格を取得。第二の成人式、40歳を迎えたことを機に女性が資産運用について学び直す提案業務を行っている。
※確定拠出年金相談ねっと https://wiselife.biz/fp/mterakado/
女性のための電話相談『ボイスマルシェ』   https://www.voicemarche.jp/advisers/781 

「老後2000万円問題」は全員共通ではない!

2019年6月、マスコミ等で大きな話題となった「老後2000万円問題」。この問題の本質がわかっていない方が多いと思います。マスコミはおもしろおかしく、情報の一部を切り取って公表していますから。
 
この問題の発端は、金融庁のワーキンググループがまとめた報告書です。このワーキンググループには、世界の金融事情にも詳しく、各界で活躍している方々が選ばれています。この報告書は、作成までにさまざまな情報が研さんされ、かつ一般の方にもわかりやすい言葉を使って書かれており、素晴らしい内容です。
 
約50ページ、30分もあれば読めます。しかし多くの方は、この報告書を読まずに、その中のわずか一部分を切り取って「2000万円も足りないとはどうゆうことだ」と大騒ぎしたのです。
 
しかし、この報告書の本来の目的はそうではないと思います。これから日本が抱える『高齢化社会』に対してのさまざまな注意喚起です。その中で、「老後2000万円問題」にあたるページは『収入・支出の情況』であり、小見出しは『平均的収入・支出』とあります。
 
そうなのです。あくまでも平均です。平均寿命は男性が81.25歳、女性は87.32歳ですが、誰しもがその年齢で亡くなるわけではありません。老後のお金も同じ。あくまでも現状のモデルケース(平均値より選出)で計算をした場合は、「2000万円ほど足りない」ということなのです。
 
ご参考までに、下記にそのモデルケースを記載します。
 
【2000万円問題のモデル夫妻の毎月の収支】
 
夫65歳、妻60歳(妻は専業主婦第3号)
収入:20万9198円(公的年金19万1880円)
支出:26万3768円
差額:5万4570円
 
上記の差額を1年間に落とし込むと約66万円です。30年で約1965万円になるので、「2000万円の不足」と表現されたのでしょう。
 
しかし、ここで問題があります。あらためてこのモデルケースの収入をご覧ください。ご夫婦で公的年金が約20万円あります。共働き家庭が全体の過半数を占める今、この数字を上回る家庭も下回る家庭もいるでしょう。
 
ご自身の家庭は、どちらに当てはまるかわかりますか?
 

老後の収入はいったいいくらあるのか?

Bさんの夫のようなケースを「自営業の二代目問題」と個人的に呼んでおり、実はご相談がとても多いのです。現在、50代前後の方は、自営業の親をみて安心しきっている感じがします。なぜなら、高度成長期からバブルにかけて、個人事業主の方も景気が良く、多くの方のご商売は繁盛しました。ですから預金も多くでき、またその預金が利息を生んでいたのです。
 
平成2年9月(1990年)時点、郵便局における3年以上の定額預金の金利は6.33%。100万円を10年間預けると、なんと、169万1893円になったのです。当時は、一生懸命働いて、お金を定期預金に預けていれば自然と増えていったのです。その親と同じようにしていれば大丈夫、という感覚でいると大変危険です。令和時代は、そうはいきません。
 
B子さんにお話を伺うと、売上も先代のときより良くないそうです。理由は「どっちつかず」であるとか。洋食屋として味はおいしいが、珍しいメニューがあるわけではない。加えて、特に若い人にとって金額が高い。どんな職業でも、「良き時代のまま」でいたら売上はあがりません。
 
また、現在は儲けたお金を単純に貯金しただけでは増えなくなりました。今のゆうちょ銀行の定額預金の金利は、3年以上で0.010%です。そう、今は100万円を10年間預けても100万796円(税引後)にしかならないのです。
 
時代は変わっていることを、よく考えたほうが良いでしょう。
 
自分が販売や提供している商品も金融商品(貯金)も、昭和や平成の初期とは様変わりしました。
 
さらに、B子さん夫婦の公的年金は国民年金ですが、夫は20代の頃に支払いをしていませんでした。B子さんは高校を卒業してから結婚するまでの間、約6年間は会社員で厚生年金に加入していましたが、そう大きな金額にはなりません。まるっと試算すると、下記のような年金額が予測されました。
 
【B子さん夫妻の年金予測金額】
 
夫:216ヶ月加入 このまま払い続けたとして→360ヶ月≠58万6000円
B子さん:厚生年金+国民年金 →480カ月≠85万2000円
夫婦合計 143万2000円(月11万9333円)
 
まず、夫婦合算で公的年金は143万2000円、月額にすると11万9333円にしかなりません。モデルケースの夫妻と比べるとその額は62%。そうなのです。会社員と自営業者の公的年金の受給額は、こんなにも開きがあるのです。
 
ちなみに、筆者のご相談者さまで同世代の方で、夫婦ともに厚生年金に加入しているご夫婦の年金受給見込額は、合算で月額25万円を超える方もいます。
このように、「老後の公的年金の受給額には個人差がある」ということを覚えておいてください。
 
その他の収入で加味しなくてはならないのは、下記のような項目です。
 
・事業収入以外の収入(権利・執筆etc)
・不動産収入
・投資の配当
・加入している個人年金や保険の金額
・相続で入る金額
 
など、把握はしておいたほうが良いでしょう。
 

老後の支出の予測を立てる

老後のお金の計算では「支出」も大事な要素です。モデルケースの夫妻は約27万円でしたが、B子さんご夫妻はどうなのでしょうか?
 
実はB子さんご夫妻、レストランの2階に親が住んでおり、本人たちは近くにアパートを借りていました。毎月12万円の出費です。食費は、まかないがあるので大きくかからないのですが、その分研究費という名の食べ歩き、会合という名の飲み会等、交際費が大きいようです。
 
夫婦2人とも趣味もあります。「いけないとはわかっていても、事業経費と家計費がごちゃごちゃ」とのことで、入った分はそのまま使っているような状況でした。もし、売上が大きく下がったらどうするのでしょうか? 夫は「そうなった時に考える」と楽観的です。
 
しかし、そんなことでは今の時代、生きていけないかもしれません。まずは、事業用と家庭用の収支を分けて、帳簿をつけていただくことにしました。結果は、やはりトントン。削れるところは少なく、家賃を削り同居を決意されました。「いずれは同居をしなくてはならないのだから」とB子さんも覚悟を決めたようです。
 

収入を増やす

自営業の方の良いところは、廃業リスクがある反面、定年退職がないところです。仕事が軌道にのっていれば、元気なうちは働けます。まずは「からだが資本」。健康の維持増進が大切です。
 
次に、B子さん夫婦の事業の収入は、リサーチや長年通ってくださっているお客さまへのアプローチ等で、最低でも現状は維持する努力をすること、別途パーティメニューを考えることにしました。
 
さらに行うことは、年金の繰下げです。あくまでも現況ですが、年金の受取時期を繰下げ(先延ばし)すれば、65歳で受け取るよりも繰下げ上限の70歳で受け取れば、受給額の142%で受け取ることができるのです。
 
B子さんご夫妻のケースでは、仮で
143万2000円×142%=203万3440円(月額:16万9453円)
 
となります。
 
B子さんは「こんな制度があることを知らなかった」と。「義両親も75歳まではお店で働いていたので、今の夫の健康状態などから見ると可能だと思う」とのことでした。
 

お金に働いてもらう

B子さんは、仕事の現役を“70歳になるまで”と定めました。「年金を142%もらうまでは働きます」とのこと。しかし、夫婦2人で月額16万円では足りなそうです。
 
そこで、引っ越し後、賃貸料として使用していた12万円を投資することにしました。全額投資にまわすのは不安そうでしたが、息子さんの大学費用の支払いが終わったら、その分は普通預金にまわすことに。学費で準備した残りも、貯金口座に入れることにしました。
 
さて、月々12万円の積立資金、今から約25年間という時間があります。そうすると、このご夫妻の場合は下記のような投資結果となりました。
 
【積立投資シミュレーション】
月々の積立金額:12万円
期間:25年
金利:3%
金額:5352万939円(元金360万円)
 
金融庁のデータによると、20年間の長期投資のリターン実績は平均4%です。現状では、3%での見積もりは決して大げさな数字ではないでしょう。またここに、税制優遇のある、「iDeCo」や「つみたてNISA」を上手に取り入れて、投資シミュレーションを行っていく予定です。
 

ご相談後のアドバイス

B子さんは「投資に対して恐怖心がありました」とおっしゃっていました。また、「こんなにも大きな違いがあるなんて」と驚かれていました。ご相談の結果、B子さんは離婚をせずに、将来の資産形成について夫と真剣に向き合う決意をされました。
 
上記シミュレーションのように「長期・積立・分散」で資産形成をしていけば、お金は増えます。老後のお金も足りますし、例えば自宅のリフォーム費用等も、この資産運用で捻出できそうです。
 
資産運用は、欧米では当たり前のこと。資産運用の恩恵を受けている人といない人とでは、個人の金融資産残高に大きな差がでています。老後が心配だからと安易に離婚を考えたり、お金のことを考えるばかりで何も行動を起こさなかったり……それではいけません。個人ではどうすることもできない場合は、ファイナンシャルプランナー等の専門家に相談してみるのも良いでしょう。きっと、明るい未来があるかと思います。
 
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士


 

ライターさん募集