更新日: 2020.09.09 その他老後

医療や介護の負担増にも直結。誰にでもいずれはやってくる「フレイル」って、どんなこと?

医療や介護の負担増にも直結。誰にでもいずれはやってくる「フレイル」って、どんなこと?
コロナ禍で世の中が激動しています。1年前どころかほんの半年前でも、今のような状況になるとは想像もできなかったくらい、先行きが不透明です。

そんなつい半年ちょっと前のことですが、2月1日が今年から「フレイルの日」に制定されました(ふ=2、れ=0、い=1 の語呂合わせのようです)。この「フレイル」という言葉、耳にする機会が最近増えてきたような気がしますが、どんなことなのでしょうか。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

「フレイル」とは

「フレイル」とは、加齢によって筋力が低下するなど心身が衰えてきた状態を意味します。英語の「frailty」が語源で、「虚弱」のほかに「老衰」「衰弱」「脆弱」などと訳されることもありますが、適切な予防や治療で健常な状態に戻れる可能性もあるとの意味合いを込めて、漢字ではなくあえて「フレイル」と表現されるようになりました。
 
このようなフレイルですが、わかりやすいと思われる概念図を例示すると次のとおりです(※1)。

夜明けは暗やみからいきなり朝になるわけではなく、また夜も夕方からだんだんと暗くなりながらやってきます。フレイルもまた、そうしたグラデーションのような中間過程なのです。

「健康寿命」のあとの時間も、かなり長いのです

日本人の平均寿命は、男性81.41歳、女性87.45歳(2020年7月31日 厚生労働省公表)。これは現在0歳の人の平均余命で、同時に発表されている平均余命表を見ると、例えば60歳での数値は、男性23.97年(足すと83.97歳)、女性29.17年(同89.17歳)。65歳では、男性19.83年(足すと84.83歳)、女性24.63年(同89.63歳)となるのです。
 
そして、平均寿命や平均余命の前には「健康寿命」があります。3年ごとの推計値で、直近2016年は男性72.14歳、女性74.79歳(2018年3月9日 厚生労働省が関連資料公表)。これは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく自立して生活できる期間です。
 
フレイルは、先ほどの図のように健康寿命期の最終盤です。そして健康寿命の後は、何らかの支援や介護が必要となる状態を意味します。例えば65歳の平均余命から引き算してみると、男性12.69年、女性14.84年。結構長い期間であることがわかります。

フレイルの基準、チェックポイント、そして対策とは

どんな状態になるとフレイルなのか、統一された基準はありませんが次が代表的です。(※2の2ページ)
<改訂J-CHS基準(2020年)の項目>
(1)体重減少
(2)筋力低下
(3)疲労感
(4)歩行速度(の低下)
(5)身体活動(の減少)
 
5つの項目の具体的な評価基準について、該当がなければ健常、1つまたは2つ該当するとプレフレイル(予備軍)、そして3つ以上に該当するとフレイルと判定されます。
 
また2006年からは、高齢者の身体、精神、社会の各側面について全25項目を「はい」・「いいえ」でフレイル状況を確認する、厚生労働省の基本チェックリストが使用されています。
 
一定数以上「はい」に該当すると、運動機能、栄養状態、口腔機能、認知機能などの低下、閉じこもり、うつ病などにつながる可能性のある状況です(※3の21ページ)。
 
では、どうしたらフレイルの予防や改善ができるのか。そのヒントも基本チェックリストの各項目から読みとくことができ、次が提言されています(※2の40ページ)。
(1)活動的で規則正しい生活
(2)バランスのよい食事
(3)定期的な運動(散歩、体操、筋トレなど)
(4)社会活動に参加
(5)薬に頼りすぎない
(6)かかりつけ医をもつ

まとめ

日本で死亡率の高い死因は、悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患、老衰などです。かつての感染症(結核など)から生活習慣病が疾病構造の中心となって、30兆円を超える医科診療費の中でも生活習慣病関連が3分の1以上を占めています(※4)。
 
65歳以上の人で介護が必要となった原因でも、フレイルやフレイル派生のものは、男性33%、女性50%と高率。さらに、介護のための離職者は近年毎年10万人規模で発生し、離職により約6500億円もの経済損失が見込まれます(※4)。
 
医療や介護などの費用増大が社会保障制度を揺るがしかねないと指摘されて久しいように、健康づくりや病気予防(つまり、健康寿命を延ばすこと)は社会全体にとって大きな課題です。
 
フレイルは、誰にでもいずれはやってきます。しかし、予防で先延ばしでき、到来してからでも対処して改善ができるのが特徴といえます。2月1日だけではなく、日ごろから1人ひとりが自分の問題として意識していきたいものです。
 
[出典]
(※1)第一三共株式会社「フレイルを予防する」~「フレイルとは」
(※2)国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「健康長寿教室テキスト」
(※3)国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「介護予防ガイド」
(※4)経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(平成30年9月)
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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