更新日: 2019.01.10 その他年金
専業主婦の年金 繰上げ受給は要注意!5年繰り上げで受給額30%減?
Text:井内義典(いのうち よしのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー
専門は公的年金で、活動拠点は横浜。これまで公的年金についてのFP個別相談、金融機関での相談などに従事してきたほか、社労士向け・FP向け・地方自治体職員向けの教育研修や、専門誌等での執筆も行ってきています。
日本年金学会会員、㈱服部年金企画講師、FP相談ねっと認定FP(https://fpsdn.net/fp/yinouchi/)。
繰上げ受給と専業主婦の年金
65歳からの老齢基礎年金については、65歳より前に繰上げ受給をすることができます。
繰上げ受給をすると、ひと月あたり0.5%減額され、60カ月繰上げると30%減額されることになります(図表1)。
国民年金のみ加入の専業主婦で、被扶養配偶者だった期間(第3号被保険者期間)も含めて、20歳から60歳まで40年の保険料納付済期間がある場合、老齢基礎年金の額は77万9300円(平成29年度)になりますが、60歳0カ月で繰上げ受給の手続きをすると、54万5510円になり、この30%の減額が一生続くことになります。
この繰上げの月数に応じた減額が、繰上げ受給における主な注意点です。
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夫にもしものことがあったら……
しかし、繰上げ受給の注意点は単純なものではありません。繰上げ受給開始後65歳になるまでに、長くサラリーマンを続けていたような夫が万が一亡くなった場合、妻の生涯で受け取れる年金の総額が大幅に減る可能性があります。
今月60歳を迎えた、前述の年金加入記録の専業主婦が60歳0カ月で老齢基礎年金を繰上げ受給し、その後、例えば61歳0カ月のときに、夫(22歳の大学卒業から60歳の定年退職まで会社員)が亡くなった場合、当該妻に遺族厚生年金を受ける権利が発生することになります。
原則の遺族厚生年金は、夫の報酬比例部分の老齢厚生年金の4分の3となり、夫の現役時代の給与や賞与の額で決まります。
そして、当該原則の遺族厚生年金に中高齢寡婦加算も加算されることになります。
仮に、原則の遺族厚生年金が90万円であった場合、中高齢寡婦加算58万4500円(平成29年度)と併せて、148万4500円になり、60歳0カ月で繰上げた老齢基礎年金54万5510円より高い金額となります。
しかし、年金は「1人1年金」を原則としています。2種類以上の年金の権利がある場合は、いずれかを選択して受給することがルールとなっています。
老齢と遺族、どちらか選択ということになりますが、中高齢寡婦加算が加算された遺族厚生年金の金額が圧倒的に高いと、遺族厚生年金を選択受給することになるでしょう。そうなると、せっかく繰上げた老齢基礎年金については、支給停止となり、受給できないことになります。
妻が65歳になると、「1人1年金の原則」の例外として、老齢基礎年金と遺族厚生年金は併せて受給することができますが、引き続き30%減額された老齢基礎年金と90万円の遺族厚生年金での受給となります(中高齢寡婦加算はなくなります)。
生涯に受給する年金総額の逆転年齢が早くなる!
長生きをすると、繰上げした場合は繰上げしない場合と比べて生涯に受け取る年金の総額が少なくなりますが、遺族厚生年金を選択しているために老齢基礎年金が支給停止となる期間が長いと、早い時期に年金の受給総額が逆転することにもなります。
老齢基礎年金のみで考えて、77万9300円の老齢基礎年金を60歳0カ月で繰上げ受給する場合と、65歳から受給する場合では、総額で逆転するのは、77歳になる前です(図表3)。つまり、77歳まで生きると、60歳で繰上げ受給するほうが少ないということになります。
しかし、遺族厚生年金も含めて年金の累計額を計算すると、前述の事例の場合では、何と67歳過ぎには逆転してしまいます(図表4)。
61歳から65歳までの4年間に、繰上げた老齢基礎年金が支給されないことが大きく響いていることになり、80歳まで生きると約300万円差がついていることになります。
原則の遺族厚生年金の額や、専業主婦に結婚前の会社員期間(厚生年金保険加入期間)がある場合の、老齢厚生年金の支給も含めて考える必要がありますが、サラリーマンの配偶者である専業主婦の繰上げについては、万が一の遺族年金の受給も踏まえて検討する必要があるでしょう。
Text:井内 義典(いのうち よしのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー