更新日: 2019.08.29 その他年金
年金の繰り上げ支給と繰り下げ支給、お得に受給する損益分岐点とは
確かに、将来もらう年金に対して不安を持っている人はとても多いです。
だからこそ、年金制度について正しい知識を身に付け、老後対策を行うことが大切です。年金制度はかなり複雑ですから、理解しづらい部分が多くありますが、少なくとも自分に関係ある部分だけは情報を得ておきたいですね。
今回お伝えする、老齢基礎年金の「繰り上げ・繰り下げ支給」は、将来年金をもらう人全員に関係する制度です。
「繰り上げ・繰り下げ支給」は注意点がたくさんありますので、賢く活用して、老後対策をしたいですね。
執筆者:前田菜緒(まえだ なお)
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
保険代理店勤務を経て独立。高齢出産夫婦が2人目を産み、マイホームを購入しても子どもが健全な環境で育ち、人生が黒字になるようライフプラン設計を行っている。子どもが寝てからでも相談できるよう、夜も相談業務を行っている。著書に「書けばわかる!わが家の家計にピッタリな子育て&教育費のかけ方」(翔泳社)
繰り上げ支給を利用すれば60歳から年金がもらえる
老齢基礎年金の受給開始年齢は原則65歳です。しかし、本人の希望により、年金受け取り時期を早めることができます。65歳より早くもらうことを「繰り上げ支給」と言い、60歳まで繰り上げることができます。
繰り上げは1カ月単位で行うことができますが、繰り上げると1カ月あたり0.5%、年換算で6%年金が減額されます。60歳まで5年間繰り下げるとすると、減額率は、30%ということです。この減額率は生涯続き、一度請求すると取り消しはできません。
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繰り下げ支給で年金額を増やせる
繰り上げ支給とは反対に、65歳より老齢基礎年金の受け取り時期を遅らせることもできます。これを「繰り下げ支給」と言い、70歳まで繰り下げることが可能です。
繰り下げをすると、年金額は1カ月あたり0.7%増額されます。1年あたり8.4%、5年繰り下げると42%の増額です。繰り下げ支給についても、増額率は生涯続き、一度請求すると取り消しはできません。
繰り上げ支給と繰り下げ支給の損益分岐点は
繰り上げ支給が良いか、繰り下げ支給が良いかは、厚生年金の加入状況や雇用保険の給付を受けているかどうかなど、個々人の事情によって異なりますし、生年月日によっても異なります。
しかし、何かしらの目安がないと、繰り上げ・繰り下げについて考えることはできません。そこで、繰り上げと繰り下げの損益分岐点について考えてみました。
損益分岐点を可視化するため、繰り上げ・繰り下げによる老齢基礎年金の総受給額の表を作成しました。65歳から老齢基礎年金を受給した場合と比べ、損得基準の年齢を表した表です。太線の年齢が損益分岐点の年齢です。
※物価変動やスライド調整率は加味しておりません。年金額は平成29年度の老齢基礎年金の金額です。
例えば、60歳から繰り上げ支給をした場合、65歳から年金をもらい始めた場合と比べ、76歳の時点で年金の総受給額が減ります。よって、60歳から繰り上げ支給する場合、76歳よりも長生きすると損ということになります。
これは、計算によっても答えを導き出せます。繰り上げ支給は1年間で6%減額となりますから、100%÷6%=16.6
つまり、受給開始から16年目以降で損が発生するということです。
一方、70歳まで繰り下げ支給をした場合、65歳から年金をもらい始めた場合と比べ、81歳の時点で年金額が増えます。よって、70歳から繰り下げ支給する場合、81歳よりも長生きすると得ということになります。
計算式で表すと、繰り下げ支給は1年間で8.4%増額されますから、100%÷8.4%=11.9
よって、受給開始から11年目以降から得になるということです。
自分が何歳に死ぬのかわかれば簡単に答えを出せますが、それは誰にもわかりません。
しかし、長生きすればその分生活費が必要です。思っていたより寿命が短かったという結果になれば、年金をもらい損ね、損した気持ちになるかもしれませんが、生活に困窮することはありません。
しかし、長生きを想定せず長生きした場合、生活に困窮してしまう可能性があります。ですから、ご自身の事情に合わせて年金制度を上手に活用し、長生きしても生活に困らない老後対策を今から行っていきたいですね。
Text:前田 菜緒(まえだ なお)
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)認定者