更新日: 2023.09.13 その他年金
【相談】年金の繰り下げって本当にお得なのですか?
ですが、その内容は従来のルールに基づいて試算したもので、特に何ら変わらないものでした。政府としては、今後高齢者にも働いてほしいので、繰り下げのメリット(?)をアピールしたということだったのかもしれません。
受給者の立場に立って考えてみると、年金繰り下げは、果たして得なのでしょうか?考えてみたいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
目次
年金繰り下げのメリットは?―年金繰り下げで受給額はどれだけ増えるか?
本来、65歳にもらえる老齢厚生年金および老齢基礎年金を70歳まで繰り下げると、受給額は42%増えます
1年間にもらえる年金の金額は増えますが、もらえる期間は5年減ります。最終的に得かどうかは、繰り下げた人が何歳まで生きるかで決まります。単純計算すると、82歳まで生きるとトントン。それ以上生きると、得ということになります。
平成29年時点の日本人の平均寿命は、男性 81.09歳、女性 87.26歳ですから、平均寿命まで生きるとすると、男性はほぼトントン、女性は得ということになります。
ところが、自分の寿命はだれにも分かりませんから、この計算はどこまでいってもギャンブルで、損得の結論は出ません。では、この事実をベースに、どのように年金をもらうのが、最も有利になるかを考えてみましょう。
【PR】資料請求_好立地×駅近のマンション投資
【PR】J.P.Returns
おすすめポイント
・東京23区や神奈川(横浜市・川崎市)、関西(大阪、京都、神戸)の都心高稼働エリアが中心
・入居率は99.95%となっており、マンション投資初心者でも安心
・スマホで読めるオリジナルeBookが資料請求でもらえる
年金繰り下げ時の注意事項(1)― 加給年金
厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳到達時点で、その人によって生計を維持されている65歳未満の配偶者、または、18歳になってから最初の3月31日を迎える前の子(障害者1級、2級の子は20歳未満)がいるときに、加給年金が加算されます。
加給年金は、いわば、年金受給者の家族手当というべきものです。
65歳以上の人で65歳未満の配偶者がいるという例は多いと思います。その場合、年額38万9800円の加給年金が、配偶者が65歳になるまで支給されますが、老齢厚生年金を繰り下げると、繰り下げ期間中は、加給年金を受け取ることはできません。
それでは、繰り下げ受給は不利ということでしょうか?対応策はあります。年金の繰り下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれでできるので、老齢基礎年金だけ繰り下げ、老齢厚生年金は繰り下げなければ、加給年金をもらうことができます。
例えば配偶者の方と5歳年の差があるとすれば、38万9800円/年×5年=194万9000円の加給年金をもらうことができます。それ以上の年の差があれば、さらにその金額は増えることになります。
年金繰り下げ時の注意事項(2)― 在職老齢年金
就労しながら老齢年金を繰り下げた場合、老齢基礎年金には影響がありません。しかし、老齢厚生年金は本来の年金額から、在職による支給停止分を差し引いたうえで、繰り下げの増額が行われます。
そのため、65歳以上で給与収入がある人の場合は、繰り下げ後に年金をできるだけ多く受け取るという観点からは、在職による支給停止分がないようにすべきです。
本来受け取るべき老齢厚生年金を108万円(基本月額9万円)(厚生労働省が作成した平成26年財政検証モデル世帯の、夫の月額老齢厚生年金ベース)とした場合、支給停止分をゼロにするためには、46万-9万=37万円なので、標準報酬月額が37万円(年収換算444万円)以下になるように働けばよいということになります。
65歳以上で働く大部分の人は、この収入の中に収まるので問題はないと言えます。
年金繰り下げ時の注意事項(3)― 税金・社会保険料
年金を繰り下げ受給すると、年金の額面は最大42%増えますが、収入が増えた分だけ、所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料が増えるので、手取り額は額面ほど増えません。
税金や社会保険料は、そもそもの年金額やほかの収入、扶養家族の有無、各種控除、居住地域などで変わるので、そう簡単に試算はできません。ただし、額面の増加率を42%とすると、手取り金額は一般的な例で10%近い減額となり、30%台前半になるようです。
年金繰り下げ時の注意事項(4)― 障害厚生年金および遺族厚生年金との関係は?
65歳時点で遺族年金、または障害年金など、ほかの年金を受給している場合は、自分の年金を繰り下げすることはできません。
老齢年金を繰り下げ受給している本人が亡くなった場合、遺族年金計算の基礎となる金額は、繰り下げにより増額された金額ではなく、本人が65歳時点で本来もらう年金額になります。
すなわち、老齢年金を繰り下げすることは、ほかの年金を受給することになった際には、メリットにならず、本来の金額にリセットされてしまうということです。
年金繰り下げは得か?
上記で、年金繰り下げの是非を判断するための主な材料はでそろったと思います。
自分が何歳まで生きるか分からないこと、かつ、年金繰り下げの手取り額は税金、社会保険料が増えるので、最大42%までいかないことを考えれば、「年金も加給年金ももらえるものはまずきちんともらっておく。そのうえで、当面の生活に余裕がある人は将来のために年金分を貯蓄しておく」というのが、正しい対応のように思います。
本文中で指摘した、繰り下げのデメリットを十分承知したうえで、将来のための生活費の原資を確保したい人は、長生きのための保険として年金繰り下げを活用することも考えられるでしょう。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー