更新日: 2024.10.04 その他年金

遺族年金が「5年」で打ち切りに!? 50代会社員の夫の死後、妻の平均寿命までに“必要な金額”はいくら? 不足額をシミュレーション

遺族年金が「5年」で打ち切りに!? 50代会社員の夫の死後、妻の平均寿命までに“必要な金額”はいくら? 不足額をシミュレーション
「遺族厚生年金」制度を改正する法案が2024年末までにまとめられる見込みです。改正の骨子は、男女差や年齢差の問題を解消するために、60歳未満で子がいない配偶者が受け取り始める遺族厚生年金の受給期間を、約20年かけて男女とも一律5年にする、という内容です。主に現在おおむね40歳未満の女性は、法改正の影響を受ける可能性があります。
 
本記事では、改正法の成立、施行を前提に、夫の死後、妻のその後の支出総額、収入総額、不足する額についてシミュレーションします。
福嶋淳裕

執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)

日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。

https://www.fp-fukushima.com/

現行の遺族厚生年金と問題点

現行の遺族厚生年金では、「夫の死亡時点で30歳以上の妻」は(再婚などをしない限り)終身で受け取ることができます。「夫の死亡時点で30歳未満、かつ子がいない妻」は(再婚などをしない限り)5年間受け取れます(年金法上の「子」とは、18歳到達年度末までの子、または障害等級1・2級の状態にある20歳未満の子を指します)。
 
遺族が夫の場合、「妻の死亡時点で55歳以上の夫」は原則60歳から(再婚などをしない限り)終身で受け取れます。「妻の死亡時点で55歳未満の夫」は一切受け取れません。昭和時代の制度設計であり、当時の社会には適合していたのでしょうが、残された配偶者の性別と年齢による給付の格差が徐々に問題視されるようになりました。
 

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遺族厚生年金の改正案

2024年7月末現在の改正案は、5年給付となる妻の対象年齢を、現行の「30歳未満」から「60歳未満」に約20年かけて段階的に引き上げるとともに、「60歳未満の夫」を新たに5年給付の対象とするものです。これらによって「60歳未満で子がいない配偶者は男女一律5年給付」となり、男女差や年齢差の問題が解消されます。
 
なお、「死別時点で60歳未満、かつ子がいる配偶者」「死別時点で60歳以上の配偶者」「施行日前に受給権が発生している人(すでに受け取り始めている人)」については、現行制度が維持されます。したがって、マイナス方向の影響を受ける可能性がある人は、主に現在おおむね40歳未満の女性といえます。
 

残された妻に不足する額はいくら?

シミュレーションの前提は次のとおりです。

●勤続期間中の平均年収が500万円だった会社員の夫が勤続30年で死亡
●夫の死亡時、妻は50歳になったばかりの専業主婦、過去に就労期間なし
●20代の子どもが1人いるが独立済み
●平均的な貯蓄がある
●夫の死亡により、妻は平均的な額の生命保険金を受け取れる
●夫の借入金は住宅ローンだけであり、団体信用生命保険から全額返済される
●妻は65歳から老齢基礎年金を満額受け取れる
●インフレやデフレは考慮しない

妻が亡くなるまでの支出の総額

●妻の余命は38年と仮定(50歳女性の平均余命は38.23年)
●消費支出(いわゆる生活費)は、64歳までの15年間は月17万円(単身世帯[平均年齢58.2歳]の平均)、65歳からの23年間は月15万円(65歳以上の単身無職世帯の平均)と仮定
●非消費支出(直接税、社会保険料)は全期間月1万円(65歳以上の単身無職世帯の平均)と仮定

これらの仮定で妻が亡くなるまでにかかる支出の総額を概算すると、次のようになります。
 
(17万円+1万円)×12月×15年+(15万円+1万円)×12月×23年=7656万円
 
高齢期の施設入居費用や介護費用、死後の葬儀費用などの支出は含めていない点に留意が必要です。
 

現在の貯蓄額+妻が亡くなるまでの収入の総額

●現在の貯蓄額を750万円と仮定(金融資産がある50代世帯主の中央値)
●夫の死亡退職金を2050万円と仮定(大学卒、勤続30年、52歳のモデル退職金額)
●夫の死亡による生命保険金を1600万円と仮定(50代男性の生命保険加入金額の平均)
●夫の死亡による遺族厚生年金を約62万円×5年間=約300万円と仮定(遺族厚生年金を年収500万円×5.481÷1000×30年×3÷4の約62万円として)※
●妻の老齢基礎年金を年81万6000円×23年間=約1900万円と仮定(2024年度の満額は81万6000円)

以上を合計すると、現在の貯蓄額+妻が亡くなるまでの収入の総額は6600万円になります。
※現行の遺族厚生年金であれば、終身給付のため約62万円×38年間=約2350万円です。改正によって5年給付になると約300万円となり、約2050万円の収入減です。
 

不足する額は?

今回の前提、仮定の場合、支出総額7656万円から、貯蓄+収入総額の6600万円を引くと、約1050万円不足する結果になりました。あくまでも統計値を基にした試算であるため、実際には世帯の現状に合わせて計算する必要があります。
 

不足分はどうすればいい?

今回の前提では妻を専業主婦としましたが、会社員であれば、妻自身の給与や退職金、定年後の再雇用などによって「不足しない」結果にもなり得ます。
 
世帯の現状に合わせた計算の結果「不足する」場合、不足分はどうすればよいのでしょうか? 将来のお金に関する心配を減らすためには、収入と支出、資産と負債の現状を把握した上で、「収入を増やす」「支出を減らす」「運用して増やす」の視点で、できること、できそうなことに取り組む必要があります。
 
「収入を増やす」方法としては、専業主婦であればアルバイト、パートタイムの仕事にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
 
「支出を減らす」には、定期的に支払っている、いわゆる固定費をすべて点検し、可能なものは解約、減額する方法が最も効果的です。「運用して増やす」ことも長期的には有効な手段です。NISAやiDeCoなど、運用益非課税の仕組みを夫婦2人で活用しましょう。
 

まとめ

繰り返しになりますが、実際には世帯の現状に合わせて計算する必要があります。本記事を参考に、今後の支出と収入の種類と予想額を書き出し、貯蓄額を加えて計算してみてはいかがでしょうか。
 

出典

日本年金機構 遺族年金ガイド 令和6年度版
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
 
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

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