パートとして厚生年金の被保険者となって、60歳以降も働くと、年金に上乗せがあるって本当ですか?
配信日: 2024.12.05
パートタイマーに社会保険が適用されると65歳から老齢厚生年金が支給されますが、その額は主として被保険者期間の報酬額、および被保険者期間から算出される報酬比例部分により決まります。また、経過的加算も上乗せされます。
今回は、60歳以降も厚生年金の被保険者としてパートタイマーなどの形で働く際に、報酬比例部分に上乗せされる「経過的加算」の額が大きくなることについて、詳しく解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
老齢厚生年金の仕組み
1. 老齢厚生年金の受給要件
老齢基礎年金を受け取ることができる方に、厚生年金の加入期間がある場合、65歳からは老齢基礎年金に加え、老齢厚生年金を受け取ることができます(※1)。
2. 老齢厚生年金の受給額
老齢厚生年金は「報酬比例部分」、「経過的加算」および加給年金額を合計した金額となります。
老齢厚生年金の額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
(1)報酬比例部分
報酬比例部分は、老齢厚生年金額の計算の基礎となるもので、厚生年金の被保険者期間と、被保険者であった間の報酬額などを基に、以下の式で概算することができます。
報酬比例部分=被保険者期間の平均年収×5.481/1000×被保険者であった年数
(※2を基に筆者作成)
したがって、パートタイマーとして働いて得る報酬が高く、かつ働く年数が多いほど、報酬比例部分の額は大きくなります。なお、平成15年3月以前の加入期間における計算式は異なります。
(2)加給年金額
加給年金額は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が65歳到達時点で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいるときに、図表1の額が加算されるものです(※3)。
図表1
対象者 | 加給年金額 | 年齢制限 |
---|---|---|
配偶者 | 40万8100円 特別加算額を含む |
65歳未満 |
1人目・2人目の子 | 各23万4800円 | 18歳到達年度の末日までの間の子 または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
3人目以降の子 | 各7万8300円 |
日本年金機構「加給年金額と振替加算」を基に筆者作成(※3)
したがって、パートタイマーである方の生計を維持している配偶者がある場合、その方の老齢厚生年金に、配偶者の加給年金額が加算されることが想定されます。
むしろ加給年金額の対象となっている方が、20年以上厚生年金の被保険者として働くと、配偶者の加給年金額は支給停止されますので、被保険者期間が長くなる方は勤務年数に注意するとよいでしょう。
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経過的加算とは
従来60歳から支給されていた「特別支給の老齢厚生年金」(男性は昭和24年4月1日、女性は昭和29年4月1日以前生まれの方が対象)には、定額部分と報酬比例部分を合算した額が支給されていました。
一方、65歳から支給される老齢厚生年金は、定額部分が老齢基礎年金に置き換わり、報酬比例部分が老齢厚生年金として支給されます。しかしながら、定額部分の方が老齢基礎年金の額より多いために、65歳以降の老齢厚生年金には、その差額が「経過的加算」として加算されます(※4)。
1. 定額部分の額
定額部分の金額は、以下の計算式により算定されます(※5)。
定額部分=1701円(令和6年度基準額)×被保険者期間の月数(480月を上限)
2. 経過的加算の金額
「定額部分」として計算した額から、厚生年金の被保険者期間のうち、「昭和36年4月以降で、20歳以上60歳未満の期間の、老齢基礎年金相当額」を差し引いた額となります(※1)。
経過的加算の金額=定額部分-老齢基礎年金相当額
老齢基礎年金相当額=81万6000円(令和6年度基準額)×(20歳以上60歳未満の被保険者期間の月数÷480月)
(※1を基に筆者作成)
経過的加算の具体的事例を紹介
パートタイマーを続けてきた人が初めて社会保険の適用を受けて、60歳以降も働く場合とそうでない場合で、経過的加算にどのような違いが出てくるのか見てみましょう。ここでは簡易的に平均年収を用いて概算します。
1. 50歳から60歳まで、パートタイマーとして10年間働いた場合の老齢厚生年金額
50歳から社会保険の適用を受けて60歳までの10年間、パートタイマーとして平均年収200万円で働いた場合、老齢厚生年金の額は以下のとおり計算され、10万9740円となります。
報酬比例部分=200万円×5.481/1000×10年=10万9620円
定額部分=1701円×10年×12月=20万4120円
老齢基礎年金相当額=81万6000円×10年×12月/480月
経過的加算=20万4120円-20万4000円=120円
老齢厚生年金額=10万9620円+120円=10万9740円
2. 55歳から65歳まで、同じ条件の下10年間働いた場合は、約10万円老齢厚生年金が多くなる
パートタイマーとして55歳から社会保険の適用を受けて65歳まで、同じように10年間、平均年収200万円で働いた場合の老齢厚生年金の額は、以下のとおり計算され、報酬比例部分は同額でも経過的加算が多くなるため老齢厚生年金額が21万1740円となります。
報酬比例部分=200万円×5.481/1000×10年=10万9620円(同額)
定額部分=1701円×10年×12月=20万4120円(同額)
老齢基礎年金相当額=81万6000円×5年×12月/480月=10万2000円
経過的加算=20万4120円-10万2000円=10万2120円
老齢厚生年金額=10万9620円+10万2120円=21万1740円
3. 65歳以降も働くと、収入に関わらず1年当たり約2万円年金が増える
65歳以降も厚生年金の被保険者として働くと、収入に関わらず1年当たり2万412円の経過的加算があり、その分老齢厚生年金の額が増えることになります。
定額部分=1701円×1年×12月=2万412円
老齢基礎年金相当額=0円
経過的加算=2万412円-0円=2万412円
ただし、20歳から60歳までの40年間、老齢厚生年金の被保険者であった方は、被保険者期間の月数が上限の480月になるため、定額部分は上限の81万6480円となります。したがって、老齢基礎年金相当額の81万6000円との差額480円が経過的加算となり、それ以上増えることはありません。
まとめ
近年、多くのパートタイマーの方が社会保険の対象となり、社会保険料負担が生じた結果、65歳から当然の権利として、老齢厚生年金を受給できるようになりました。その額は、厚生年金の被保険者として働いて得た報酬と勤続年数により算定される「報酬比例部分」に、「経過的加算」が上乗せされます。
60歳以降も厚生年金の被保険者として働きつづけた場合、収入に関わらず被保険者期間1月当たり1701円、1年当たり2万412円が経過的加算として、報酬比例部分に上乗せされ、老齢厚生年金が増えることになります。
出典
(※1)日本年金機構 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※2)日本年金機構 年金用語集 は行 報酬比例部分
(※3)日本年金機構 加給年金額と振替加算
(※4)日本年金機構 年金用語集 か行 経過的加算
(※5)日本年金機構 年金用語集 た行 定額部分
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士