厚生年金保険料が「国民年金」の補てんに!? 会社員が「損」をして、自営業者が「得」することになるの? 改正案について解説
配信日: 2024.12.31
このニュースを見聞きして、「厚生年金保険料が国民年金のみに加入してきた人にも使われるのは不公平だ」「会社員には損ではないか」などと受け止めた人は多いかもしれません。本記事では、この改正案について解説します。
執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。
改正の必要性と意義
今回の改正案の名称は「基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(調整期間の一致)」です。まず用語の意味を確認していきましょう。
「基礎年金」は国民年金により受け取る年金の総称です。会社員だった人などは、基礎年金に加えて厚生年金も受け取れます。
「マクロ経済スライド」とは、少子高齢化が進む中でも年金制度の持続可能性を確保するために、賃金や物価が上昇しても年金額の伸びを一定程度抑える(調整する)仕組みのことです。年金財政が改善し、長期均衡が見込まれるようになると調整が終了することになっており、現行の制度では厚生年金は2026年度に、基礎年金は2057年度に調整終了の見込みです。
「給付調整の早期終了」とは、基礎年金の調整終了時期を現行制度の2057年度よりも早めることを意味します。
「調整期間の一致」とは、厚生年金の調整終了時期(現行制度では2026年度)と基礎年金の調整終了時期(現行制度では2057年度)を一致させることを意味します。マクロ経済スライドの導入当初、基礎年金も厚生年金も2023年度の調整終了を見込んでいましたが、さまざまな事情や環境変化によって、特に基礎年金の調整終了が大幅に遅れています。
改正の必要性
現行制度では、マクロ経済スライドによる厚生年金の調整(賃金や物価の上昇に応じた年金額の伸びの抑制)はあと2年で終了する一方、基礎年金の調整はあと30年以上続き、その間、基礎年金の「年金額の水準」は下がり続ける見通しです(「年金額の水準」とは、年金額が現役世代男性の平均手取り収入の何%に当たるかを意味し、「所得代替率」といいます。金額そのものの増減ではありません)。
改正の意義
厚生労働省は今回の改正案の意義として、基礎年金の調整を早期に終わらせ、かつ、基礎年金と厚生年金の調整終了時期を一致させ、本来の「賃金や物価に連動した年金額」を実現することと、将来の基礎年金の給付水準を向上させることなどを挙げています。
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改正するとどうなる?
厚生労働省はシミュレーションの前提条件を2パターン設定しています(経済状況が横ばいの「過去30年投影ケース」と楽観的な「成長型経済移行・継続ケース」)。このうち「過去30年投影ケース」のシミュレーション結果は次のとおりです。
●基礎年金、厚生年金ともにマクロ経済スライドによる調整は2036年度に終了する。
●夫が会社員で妻が専業主婦だった世帯は2040年度まで、会社員だった単身世帯は2043年度まで、年金額の水準(所得代替率)は現行制度よりも低くなる。
●会社員+専業主婦世帯は2041年度以降、会社員単身世帯は2044年度以降、年金額の水準(所得代替率)は現行制度よりも高い水準で下げ止まる。
会社員にとって「損」なの?
今回の改正案を実現させるために想定される財源は2つあります。「厚生年金の積立金を基礎年金により多く配分することにしよう」という年金制度の中での仕組みの変更と、「基礎年金の給付増額に伴い、国庫負担を増やしてもらおう」という国の予算の確保です(基礎年金給付の半分は国が負担しています)。
会社員や事業主(会社など)が支払っている厚生年金保険料はそのまま年金受給世代への給付に充てられており、今回の財源として想定されている積立金とは関係ありません。現在の厚生年金の積立金は、過去の被保険者の保険料の残余が積み立てられ、運用によって増えてきたものです。
厚生年金保険料には国民年金保険料分(基礎年金の分)も含まれており、厚生年金の保険料や積立金は、もともと厚生年金だけでなく基礎年金の給付にも充てられています。現在の会社員も将来、今回の改正案によって底上げされた基礎年金を受け取れるわけですから、「今回の改正案は会社員にとって損」とは言えません。
むしろ「過去30年投影ケース」のシミュレーション結果によれば、「2040年度以降に年金を受け取る人は、現役時代の働き方(自営業か会社員かなど)にかかわらず、大半の国民が恩恵を受ける」と言えそうです。逆の視点では、「2040年度までに亡くなる年金受給者は、損する人が多い」と言えるかもしれません。「若い世代ほどお得」と言えるでしょう。
まとめ
今回の年金制度改正案については、会社員などが支払っている厚生年金保険料が財源に充てられるわけではないので、「会社員の厚生年金で自営業の基礎年金を救うためのもの」といった受け止めは勘違いです。
一方で、現時点では高齢者よりも若い世代のほうが恩恵を受ける可能性が高いということは知っておきましょう。
出典
厚生労働省 第23回社会保障審議会年金部会
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)