「生活が苦しいから」と、年金を繰上げ受給する父。どうせ長生きしないとのことですが、何歳まで生きれば「損」することになるのでしょうか? 繰上げ受給の注意点を解説
配信日: 2025.01.31
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とはいえ、この決断が将来の生活にどんな影響を与えるのか、しっかり考えてみる必要があります。本記事では、デメリットを見ていきながら、繰上げ受給をすべき人、すべきでない人を考えます。
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執筆者:浜崎遥翔(はまさき はると)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
年金の繰上げ受給、損益分岐点は何歳?
年金受給は本来65歳から始まりますが、60歳から前倒しで受け取れます。ただし、1ヶ月早めるごとに0.4%(昭和37年4月1日以前生まれの人は0.5%)ずつ減額され、この減額は一生涯続くことに注意が必要です。また繰上げ受給を始めると取り消しはできないため、慎重な判断が求められます。
65歳から月額15万円の年金を受給できる見込みの人が、62歳で繰上げ受給を開始した例を考えましょう。0.4%×36ヶ月(3年)で14.4%の減額となります。年金受給額は12万8400円となり、本来の受給額15万円より2万1600円少なくなります。ただこの12万8400円の年金を、通常より3年早く受給開始できるのです。
一見すると、62歳から3年間で462万2400円(12万8400円×36ヶ月)を受け取れる点は魅力的かもしれません。しかし、その後の生活を考えると話は変わってきます。65歳以降は本来より毎月2万1600円少ない年金が一生涯にわたって続くためです。
この差額が積み重なると65歳から214ヶ月後、つまり82歳10ヶ月になったタイミングで損益が逆転します。
2023年の簡易生命表によると、62歳の平均余命は男性が21.98年(83.98歳まで)、女性が27.09年(89.09歳まで)です。平均余命まで生きると仮定すれば、62歳での繰上げ受給は、生きている間に損益が逆転することを示しており、経済的に不利になる可能性が高いのです。
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繰上げ受給のデメリット
繰上げ受給には月々の支給額が減る以外にも、いくつかデメリットがあります。主な注意点を見てみましょう。
国民年金保険料の追納ができなくなる
20歳から60歳までの保険料の納付月数が480ヶ月未満の人は、国民年金に任意加入し追納することで、将来の年金を増やせます。しかし、繰上げ受給をすると、未納分の国民年金保険料を追納することができなくなることに注意が必要です。
失業保険をもらっている人や働いている人は受給額が減ることも
雇用保険を受け取っている人や働いて給与収入を受けている人は、繰上げ受給をする前に慎重な判断が必要です。
例えば、高年齢雇用継続給付を受け取っている場合や、年金金額と給与金額の合計が一定額を超える場合に、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止となります。
失業保険を受け取っている人や、働きながら年金を受け取ろうと考えている人は、年金受給額にどれほど影響が出るか、あらかじめ年金事務所などに相談したほうが良いでしょう。
障害者年金や遺族年金に影響が出る
繰上げ受給をした老齢年金と遺族厚生年金は併せて受給できません。65歳まではどちらかを選んで受給することになりますが、ここで遺族厚生年金を選んだ場合、65歳までは繰上げ受給でもらえるはずの老齢年金を受給できないので、繰上げ受給のメリットが消滅します。
しかし、65歳以降に受け取る年金額は繰上げ受給による減額の影響を受けるので、デメリットだけが残る結果となってしまうのです。
さらに、繰上げ請求を行った日以降、障害年金の事後重症請求ができなくなります。そのため治療中の病気や持病がある人は注意が必要です。
繰上げ受給を選ぶ前に考えるべきこと
年金の繰上げ受給は、現在の生活が苦しく今すぐに生活費として年金が必要な場合や、平均寿命よりも短命であることが見込まれる場合に適した選択肢といえます。とはいえ、繰上げ受給は一度行うと取り消しができず、年金の減額は一生涯続きます。
したがって、将来の生活が破綻しないか、しっかり確認した上で繰上げ受給を開始することが重要です。平均余命より長生きすると、繰上げ受給が不利となるケースがほとんどなので、就労などで収入を得る道も模索したほうが良いでしょう。
また、繰上げ受給によるデメリットは、年金額の減額だけにはとどまりません。ほかの収入源がある人や重病で障害者年金をもらう可能性がある人は特に慎重に判断したいところです。
デメリットの大きさは、個人の置かれている状況によって異なります。不安や疑問がある場合は、年金事務所や日本年金機構の相談窓口を利用し、自分にとって最適な選択肢を見つけましょう。
出典
日本年金機構 年金の繰上げ受給
厚生労働省 令和5年簡易生命表の概況
執筆者:浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士