事実婚の夫婦です。もしも会社員の夫が亡くなったら、遺産を相続できますか? また、遺族年金はもらえますか?
配信日: 2025.02.15

つまり、法律上の婚姻(民法742条)とは認められないけれども、届け出を出していないだけなので、婚姻に準じた状態をいいます。そうであれば、事実婚も法律婚と同じように相続や遺族年金ももらえてもよさそうです。

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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内縁と相続
通常、夫が亡くなったときに、妻は相続する権利があります(法定相続分は2分の1)。
しかし、事実婚の妻は「配偶者」(民法900条)ではないため相続人にはなれず、内縁の夫の遺産を相続する権利はありません。当然、配偶者に認められている「配偶者の税額控除」「小規模宅地等の特例」の優遇税制は受けられません。
なお、事実婚の妻との間の子どもがいる場合、夫がその子どもを認知していれば、子に相続権があります(民法779条)。
内縁の夫に相続する人が1人もいない場合、財産は原則として国庫に帰属することになります(民法959条)。相続債権者等への弁済(民法957条)の手続きを経て残余財産がある場合、事実婚の妻は、家庭裁判所で「特別縁故者」の手続きをとることで、遺産の全部または一部を受け取れる可能性があります(民法958条の2)。
夫が自分の死後、事実婚の妻に財産を残したいと思うのであれば、対策が必要です。たとえば、生前に財産を贈与するという方法があります。
また、遺言書に、事実婚の妻に財産を遺贈する旨の記載をすることで、財産を残すことが可能となります(相続税の2割加算の対象)。事実婚の妻を死亡保険金の受取人とする生命保険に加入するのもいいでしょう。
ただし、非課税限度額(500万円×法定相続人数)は受けられません。これらは、夫に判断能力(意思能力)があるうちにしておきましょう(民法3条の2)。
内縁と遺族厚生年金
遺族厚生年金を受け取れる遺族は、死亡当時、死亡した方によって「生計を維持」されていた、配偶者・子、父母、孫、祖父母が対象で、最も優先順位の高い方が年金を受け取れます。
相続と異なり事実婚の妻も対象(厚生年金保険法3条2項)ですので、要件を満たせば遺族厚生年金の受給が可能です。たとえば、事実婚(内縁)関係にある方の場合、事実婚関係および生計同一関係の認定が必要です。具体的には、以下の書類の提出が必要です。
・健康保険等の被扶養者になっている場合は「健康保険被保険者証等の写し」
・給与計算上扶養手当等の対象となっている場合は「給与簿または賃金台帳等の写し」
・同一人の死亡について他制度から給付が行われている場合は「他制度の遺族年金証書等の写し」
・事実婚関係にある当事者間の挙式、披露宴等が1年以内に行われている場合は「結婚式場等の証明書または挙式・披露宴等の実施を証する書類」
・葬儀の喪主になっている場合は「葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写し等)」
・これらのいずれにも該当しない場合は「その他内縁関係の事実を証する複数の書類(連名の郵便物、公共料金の領収書、生命保険の保険証、賃貸借契約書の写し、など)」
一定の場合を除き、これらいずれかの書類を提出した場合でも「事実関係および生計同一関係に関する申立書」への第三者証明の記入が必要です。留意しておきましょう。
出典
日本年金機構 遺族年金
日本年金機構 生計同一関係・事実婚関係に関する申立をするとき
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。