もうすぐ「65歳」になるので年金を受給予定です。現在「時給1500円」で働いていますが、月に「何時間」を超えると年金の受給額が減るのでしょうか?

配信日: 2025.02.21

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もうすぐ「65歳」になるので年金を受給予定です。現在「時給1500円」で働いていますが、月に「何時間」を超えると年金の受給額が減るのでしょうか?
老齢厚生年金の受給者が会社員として働き報酬を得ているとき、報酬と年金の合計が一定額を超えると、在職老齢年金制度により年金の一部または全部が支給停止になる場合があります。
 
今回は、時給1500円で働く会社員を例に、在職老齢年金制度において年金が支給停止となる働き方と年金額について具体的に解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

在職老齢年金制度とは

1. 制度の概要

在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受給している方が、厚生年金の被保険者として報酬を受けている場合、受給している老齢厚生年金の基本月額(加給年金を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額)と総報酬月額相当額(その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計額を12月で除した額を加えた額)に応じて、年金額が支給停止される制度です(※1)。
 
まず結論からいうと、時給1500円の会社員が法で認められた時間内で働く場合は、この在職老齢年金制度により年金が減る可能性は低いと考えられます。以下で詳しく説明していきます。
 

2. 支給停止額の計算方法

在職老齢年金の計算は、以下の手順で行います(※1)。
 
(1)基本月額と総報酬月額相当額との合計額が支給停止調整額以下であれば、年金は全額支給されます。
(2)基本月額と総報酬月額相当額との合計額が支給停止調整額を超える場合は、超えた額の半分が支給停止額となります。
 
令和6年度の支給停止調整額は50万円ですので、図表1のフロチャートのとおり計算されます。
 
図表1


 

3. 制度の適用範囲

(1)生年月日の要件を満たす人に65歳前から支給される特別支給の老齢厚生年金(※2)についても、同様の在職老齢年金制度が適用されます(※1)。

(2)厚生年金の被保険者は70歳未満に限られていますが、平成19年4月以降に70歳に達した方が、70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務する場合は、在職老齢年金制度が適用されます。
 
この際、「標準報酬月額」は「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額」は「標準賞与額に相当する額」として前述の計算式が用いられて年金額が算出されます(※1)。
 

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時給1500円の会社員の総報酬月額相当額

1. 法定労働時間内で働いた場合の報酬月額

労働基準法では、1日8時間、週40時間が法定労働時間として定められています。したがって、1ヶ月4週間とすれば、160時間が法定労働時間となり、時給1500円で働くとその報酬月額は24万円となります(※3)。
 

2. 時間外労働の上限まで残業した場合の報酬月額

労働基準法で認められる時間外労働の上限は、特別な労使協定がない限り月45時間、年360時間です。また、時間外労働をした場合は、賃金が25%(深夜労働、休日労働を除く)増額された賃金が支払われます(※4, 5)。
 
したがって、時給1500円の会社員が、通常の時間帯で45時間残業をした場合に支払われる報酬は、1500円×1.25×45時間で計算され、その額は8万4375円となります。
 

3. 働き方と総報酬月額相当額

総報酬月額相当額の算定に用いられる標準報酬月額とは、一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定した額で、保険料や年金額の計算に用いられます(※6)。現在の標準報酬月額は、1等級(8万8000円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています(※7)。
 
また、標準賞与額とは、実際の税引き前の賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた額です。今回は、年間賞与の額を報酬月額(残業代を除く)の2ヶ月分と想定しています。
 
時給1500円の会社員における、働き方(残業の有無)と賞与の有無に応じた総報酬月額相当額は、図表2のとおりとなります。
 
図表2


 

年金が停止される老齢厚生年金額

1. 総報酬月額相当額と老齢厚生年金が停止される年金額

時給1500円で働く会社員における、働き方と賞与の有無に基づく総報酬月額相当額と、それに応じた老齢厚生年金が停止される老齢厚生年金の額(月額・年額)は図表3のとおりとなります。
 
図表3


 
例えば、時給1500円で1日8時間、月20日働いて残業と賞与が無しの場合は、総報酬月額相当額は24万円となります。
 
このとき、在職老齢年金制度によって老齢厚生年金の支給停止が始まる年金月額は26万円(=支給停止調整額50万円-総報酬月額相当額24万円)です。したがって、年金月額26万円を12倍した312万円が、支給停止が始まる老齢厚生年金額となります。
 

2. 老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給するための平均年収は

65歳から受給する老齢厚生年金(報酬比例部分)の額は、下式で概算することができます(※8)。
 
老齢厚生年金額(報酬比例部分)≒平均年収×在職年数×5.481/1000
 
したがって、前述の312万円の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受け取るためには、20歳から65歳までの45年間働いた場合、この間の平均年収が1265万円である必要があります。
 
同様に計算すると、時給1500円の会社員における、年金の一部が支給停止となる老齢厚生年金額と、その額が支給されるために必要な平均年収は、働き方と賞与の有無に応じて図表4のとおりとなります。
 
図表4


 

3. 時給1500円であれば、どんなに働いても年金は減らされない可能性が高い

したがって、時給1500円の方が、法定労働時間に加え時間外労働の上限まで働き、報酬月額の2ヶ月分の賞与を支給されたとしても、20歳から65歳までの45年間の平均年収が681万円を超えていなければ、在職老齢年金制度により年金が減ることはありません。
 

まとめ

老齢厚生年金を受給しながら厚生年金の被保険者として報酬を得ているとき、年金額と報酬の合計額が一定額を超えると、在職老齢年金制度により年金が減額される場合があります。
 
ただし、時給1500円の会社員が法で認められた時間内で働く場合は、一般的に老齢厚生年金(報酬比例部分)が減額される可能性は低いと考えられます。なお、在職老齢年金制度は、65歳前から受給する特別支給の老齢年金や、70歳を超えて働く会社員も対象となります。
 

出典

(※1)日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
(※2)日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金
(※3)厚生労働省 労働時間・休日
(※4)厚生労働省 時間外労働の上限規制
(※5)厚生労働省 割増賃金の基礎となる賃金とは?
(※6)日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和6年度版)
(※7)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※8)日本年金機構 は行 報酬比例部分
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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