年金額が年度ごとに増えたり減ったりしますが、いつ・どのように計算されているのですか?
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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年金額が年度ごとに変動する仕組み
年金額は毎年、物価や賃金の変動率に応じて見直される仕組みになっています。これは「マクロ経済スライド」と呼ばれる制度に基づいており、少子高齢化が進む中でも長期にわたる年金制度の持続性を確保するために導入されています。
すなわち、毎年の年金額を、物価や賃金の上昇に連動させる一方で、現役世代の減少や平均寿命の延びといった社会構造の変化を反映して、年金額の増加を抑える仕組みということになります。
具体的には、物価や賃金が上がった場合でも、物価上昇分を直接反映させるのではなく、一定のスライド調整率(例:▲0.3%など)を差し引いた増額にとどめ、将来の年金財政への過度な負担を防いでいます。
例えば、ある年に賃金変動率が+2.5%だったとしても、マクロ経済スライドによって▲0.3%が適用され、実際の年金改定率は+2.2%にとどまる、といった調整が行われます。この制度により、急激な年金財政の悪化を防ぎ、将来世代への公平性も考慮した年金制度の運用が行われています。
だからといって、常にマクロ経済スライドで年金の増加分を抑えるだけというわけではありません。物価上昇率はわずかで、マクロ経済スライドを適用すると、年金額も減少してしまうような場合は、調整されず据え置かれます。
年金額がマクロ経済スライドによってマイナス改定になった例
実際に年金額が減額になった例として、2021年(令和3年)4月からの年金額改定のケースをあげておきます。この年は、前年度比0.1%の引き下げとなりました。 これは、年金の金額が連動している、賃金の指標が0.1%下がったためです。その結果 「国民年金」の満額は、「66円」下がり、「6万5075円」になりました。
年金額はいつ決まる?
では、年金額はいつ決まるのでしょうか?
年金額は、毎年1月中旬頃に翌年度(4月から)の年金額が決定されます。政府が公表する「物価変動率」や「名目手取り賃金変動率」などをもとに、厚生労働省が改定額を発表します。
新しい年金額は、その年の4月分から適用され、実際の支給には2ヶ月のタイムラグがあるため、6月に支給される分から反映されます。
2025年度はどうして変動したのか
2025年度の例です。2025年度の老齢基礎年金満額は、物価上昇を反映し前年度比約1.9%アップの年額約83万1696円、月額換算で約6万9308円、年間で約1万5700円、月額で約1308円の増額となりました。
根拠は、名目手取り賃金上昇率がプラス2.3%、これに、マクロ経済スライドによるスライド調整率(▲0.4%)(公的年金被保険者数、いわゆる現役世代数が減少したことによるもの▲0.1%と 平均余命が延びたことによるもの▲0.3%を併せたもの)を反映させた結果です。
年金受給者にとっては、このような金額の調整が生活に直結するため、毎年の改定内容を確認することが大切です。
まとめ
年金額は毎年必ず一定というわけではなく、物価や賃金、社会構造の変化などに応じて見直されます。マクロ経済スライドによる調整や支給開始月のタイムラグなど、制度を正しく理解しておくことが、老後資金の見通しにもつながります。
将来の生活設計に不安がある場合は、最新の改定情報をこまめにチェックし、ご自身の家計にどのような影響があるのかを確認しておくと安心です。
出典
厚生労働省 令和7年度の年金額の改定についてお知らせします〜年金額は前年度から1.9%の引上げです〜
日本年金機構 令和3年4月分からの年金額等について
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者
