4月から年金額が夫婦で「月4400円」上がると喜ぶ両親。でも昨今の物価上昇で“生活は楽にならない”って本当?「年金の上昇率」が追いつかない理由とは
しかし、年金額が増えたからといって、それが家計の改善に結びつくとは限りません。なぜなら、物価の上昇率が年金額の引き上げ率を上回っており、実質的には年金の「価値」が目減りしているからです。
本記事では、なぜ年金額の引き上げ率が物価上昇率に追いつかないのか、年金生活者はこれからどう対策していくべきかを解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
年金額の上昇率は1.9%。夫婦でいくら増える?
2025年4月からは、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金(厚生年金)の支給額が1.9%引き上げられます。厚生労働省の試算によると、平均年収(標準報酬月額45万5000円)で40年間厚生年金を支払ってきた夫と専業主婦の妻の夫婦のケースでは、以下の通り年金額が増えます。
●老齢基礎年金(満額の場合):6万8000円から6万9308円(1人1308円、2人で2616円増加)
●老齢厚生年金:9万2372円から9万4168円(1796円増加)
つまり、年金額が22万8372円から23万2784円に増えることになります。差額は月に4412円、年間にすると約5万2900円です。
この増額により、年金生活者の生活に今より少しゆとりが生まれるのかのように思えますが、そうとはいえない理由を説明します。
年金の上昇率を上回る、物価上昇率2.7%! 年金の上昇率が追いつかない理由は?
2025年4月から年金額が1.9%引き上げられる一方で、物価の上昇率は2.7%で年金の上昇率を上回っています。これでは実質的な年金の価値は減ってしまっているので、生活が楽になるとはいえません。
なぜ物価上昇率に年金額の引き上げ率が追いつかないのでしょうか。それは年金額を決める2つのルールが関係します。
名目手取り賃金変動率の上昇が小さいから
年金額は、物価変動率に応じて毎年改定される仕組みです。ただし、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回った場合、年金制度の支え手である現役世代の負担を考慮して、名目手取り賃金変動率を用いて年金額を改定することが法律で定められています。
2025年度の物価変動率は2.7%です。しかし、名目手取り賃金変動率は2.3%にとどまっています。このため2025年度は2.3%という数字を基準に年金額の引き上げが行われるため、物価上昇に追いつかないのです。
マクロ経済スライドの影響
それでも年金額の引き上げ率は1.9%に抑えられており、名目手取り賃金変動率2.3%に届きません。理由はマクロ経済スライドによって年金額の引き上げ率が抑制されるからです。
マクロ経済スライドは、少子高齢化が進む中で年金制度を維持するための仕組みです。日本では現役世代が減少する一方で、高齢者が増加しています。物価上昇や賃金上昇通りに年金額の引き上げを行うと年金制度が維持できないため、年金額の引き上げ幅を意図的に抑え込んでいるのです。
2025年度のマクロ経済スライドによる調整分は-0.4%です。そのため年金の名目手取り賃金変動率2.3%から0.4%を差し引いた1.9%が、2025年度の年金額の引き上げ率となっています。
年金額の上昇率と物価上昇率のギャップに対応するために
年金は物価や賃金の上昇とともに増額されますが、現在の仕組み上、年金額の上昇率が物価の上昇率に追いつかないため、結果的にもらえる年金の価値は下がっています。
したがって、それを前提とした生活設計が大切です。まず年金受給世帯は「年金が増えた」と喜ぶのではなく、実質的には価値が減ったことを認識し、家計管理をしっかり行うべきでしょう。
また、余裕資産があればインフレに強い資産(株式、不動産、金など)を持つことも大切です。投資信託を購入することで少額からこういった資産に投資できます。
ただし、高齢になるほど急な病気などで医療費や介護費がかさむ可能性も高くなるため、生活防衛資金は多めに持っておきたいところです。
現役世代も、年金の価値は徐々に減っているという認識を持ちながら、老後への準備が必要です。将来のためにNISAやiDeCoなどの制度を活用して、資産形成を行いましょう。
年金が増えても生活が楽になるとは限らない
2025年4月から年金額が引き上げられますが、物価の上昇率には追いついていません。名目手取り賃金変動率を基準にした改定ルールとマクロ経済スライドの影響があるからです。
結果的に、実質的な年金の価値は目減りしています。年金生活者は家計の引き締めや資産運用で対応し、現役世代もNISAやiDeCoなどを活用して将来の備えを進めることが重要です。
出典
厚生労働省 令和7年度の年金額の改定についてお知らせします
日本年金機構 Q年金額はどのようなルールで改定されるのですか。
執筆者:浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
