厚生年金の保険料率「18.3%」の理由とは? 過去の引き上げとその背景を解説
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
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現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
厚生年金保険料率の推移とその背景
かつての厚生年金保険は、会社員や公務員などの正規雇用の給与所得者を中心に加入が想定されていましたが、近年はパートタイムやアルバイトなど短時間労働者も含め、対象が拡大しつつあります。ここでは、まず保険料率の推移やその背景を概説します。
保険料率引き上げの経緯
厚生年金保険料率は、定期的に見直されるものの、法改正ごとに大幅な変更が行われるという形が続いていました。2004年の年金制度改革では、少子高齢化により今後予想される年金財政の悪化を見据え、毎年0.354%ずつ段階的に引き上げる方針がとられました。
その結果、約10年かけて保険料率は徐々に上がっていきましたが、2017年9月以降は18.3%で固定される運びとなりました。
厚生年金保険料は労使折半で負担するため、被保険者個人としては標準報酬月額の9.15%程度を支払う形です。
なぜ保険料が上がってきたか?
保険料率が引き上げられてきた主な理由は、少子高齢化と長寿化です。現役世代が高齢者を支える「賦課方式」の年金制度では、高齢者が増えて受給額が膨らむ一方で、支える側の若年層や労働人口が減っていくと、自然に保険料を上げざるを得なくなります。
また、医療技術の進歩や生活水準の向上で平均寿命が延びるほど、受給期間が長くなるため、財政負担が増大します。年金だけでなく医療・介護などの社会保障費全体が拡張している影響もあり、厚生年金においても引き上げ圧力が続いてきたのが実情です。
厚生年金保険料に関する最近の動き
少子高齢化や年金財政の見直しを背景に、厚生年金保険料に関する制度改正や議論が進んでいます。特に、適用対象の拡大や保険料率の動向、パートタイム労働者への影響などが注目されています。ここでは、法定固定化の意味や拡大による影響などについて解説します。
18.3%の法定固定化の意味
前述のとおり保険料率は2017年以降、18.3%で据え置かれる形になっていますが、これはひとつの“上限”を示すものであり、あくまで現行制度下での数値です。
将来的に年金の給付水準を維持するためには、保険料率以外の調整(財政検証を踏まえたマクロ経済スライドの適用や、年金受給開始年齢の引き上げなど)も検討せざるを得ません。つまり、「18.3%を超えないようにする」ために、他の仕組みを駆使して調整していくというのが国の方針です。
標準報酬月額・賞与上限の拡大による影響
厚生年金では「標準報酬月額」や「標準賞与額」という概念を用いて保険料を計算します。これらには上限が設けられており、高収入の人ほど報酬や賞与の一部が保険料算定の対象外になる仕組みでした。
しかし、近年はその上限が拡大される動きがあり、給与水準の高い層もより多くの額に対して保険料を支払う必要が出てきます。結果として、表面上の“保険料率”が18.3%で変わらなくても、対象となる報酬額が増えれば実質的な保険料負担も増すことになります。
負担増の実感
被保険者個人から見ると、保険料の引き上げや報酬上限の拡大に伴い手取り収入は削られやすくなります。また、企業側にとっても、厚生年金保険料を折半で負担するため、人件費の増加として重くのしかかります。
特に中小企業では、この社会保険料負担が経営に直結しかねない懸念が強まっています。さらに、同時期に健康保険や介護保険料率も上昇傾向にあるため、トータルでの社会保険料負担が増大しているのが現状です。
まとめ
厚生年金保険料率は、段階的な引き上げを経て2017年に法定の18.3%に達し、現行制度ではその数値が一応の“固定”とされています。
しかし、社会保障財政の窮迫は続いており、将来的な給付と負担のバランスをどうとるかが引き続き課題です。上限拡大の影響も合わせて、実質的な負担増は今なお続くため、被保険者個人・企業の双方が今後も負担の増加を実感する局面は避けられないといえます。
出典
厚生労働省 年金制度基礎資料集
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
