病気で働けず、年金を「60歳」から繰上げ受給中。体調が良くなり「月15万円」程度の時短勤務ならできそうですが、年金を受け取っているなら“厚生年金”に加入しても「払い損」になってしまう? 年金額への影響を解説
一度繰上げ受給をすると、何をしても一生年金が増えることはないのでしょうか? 例えば、繰上げ受給をしている人が、厚生年金に加入した場合はどうでしょうか?
本記事では、繰上げ受給の概要と、繰上げ受給をした人が厚生年金に加入した場合に年金額が増えるのかどうかについて説明します。
特定社会保険労務士・FP1級技能士
繰上げ受給の概要
老齢年金を繰上げ受給すると、本来の支給開始年齢より早く年金が受給できるというメリットがある一方でいくつかのデメリットがあります。
繰上げのデメリット
繰上げ受給のデメリットとしては、次のような事項があります。
●繰り上げる期間により年金が減額される
●一度繰上げ請求をしたら、取り消すことはできない
●国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなる
●事後重症による障害年金の請求ができなくなる
●寡婦年金が受給できなくなる
など
中でも「年金が減額される」というデメリットは大きく、そのため繰上げ請求を躊躇する人は多いでしょう。
どのくらい減額される?
繰上げ受給をした場合の年金の減額率は、繰り上げた月数×0.4%(1962年4月1日以前生まれの人は0.5%)です。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額が月「18万円」の場合、60歳時点で繰上げ請求をすると、減額率は24%(0.4%×60ヶ月)、ひと月当たりの年金額は「13万6800円」になります。
随分と減ってしまうように感じるかもしれませんが、60代前半の収入が心許ない人にとっては、繰上げ受給する年金は頼もしい経済的アシストになるかもしれません。
一度繰り上げたら、もう年金は増えない?
それでも「繰上げ受給を始めたら、年金の減額が一生続く」と言われると、やはり気になるところでしょう。
確かに「繰り上げた分」の減額はずっと続きます。しかし、繰上げ後の厚生年金加入期間については、年金は加算されます。
繰上げ受給をした人が厚生年金に入るとどうなる?
厚生年金の適用事業所で、加入要件を満たして働く場合は、厚生年金の被保険者になります。このことは、年金受給者(繰上げ受給者も含む)も変わりません。
年金受給者は、年金を受け取る一方で、厚生年金保険料を支払うことになります。そして厚生年金加入期間の収入と加入月数に応じて、いずれ老齢厚生年金の報酬比例部分が増額されます。また、繰上げ後に働いた分については、年金の減額はされません。
年金はいくら増える?
前述の「老齢厚生年金の報酬比例部分が増額」に関して、年金はどれくらい増えるか試算してみましょう。仮に月給15万円(賞与なし)で、63歳から65歳まで(24ヶ月)働くと、次の報酬比例額が加算されます。
15万円×5.481/1000×24ヶ月=年約1万9700円(24ヶ月分の額)
さらに65歳以降も働き続けると、毎秋、年金が加算されます。年金を受給しながら働く9月1日時点の65歳以上の厚生年金被保険者については、年に一度、年金額の改定が行われるからです。
厚生年金は70歳で被保険者資格を喪失しますが、その際にはまた、年金の再計算が行われます。もし63歳から70歳まで月給15万円で厚生年金に加入し続けた場合、トータルの増額分は年約6万9000円になります。
まとめ
老齢年金を受給し始めた後も、厚生年金被保険者として働くと、その分、老齢厚生年金は増えていきます。これは、年金を繰上げ受給した人も同じです。繰上げ受給後に支払った厚生年金保険料は掛け捨てにはならないので、体調や経済状況を考えながら安心して働きましょう。
出典
日本年金機構 年金の繰上げ受給
日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
執筆者 : 橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士
