「51万円の壁」で年金が減る? 働く高齢者が知っておきたい“在職老齢年金”の新ルールとは
本記事では、在職老齢年金制度の概要や基準額引き上げの背景、そして高齢者の働き方と年金受給の新たな展開について詳しく説明します。
佐賀FPオフィス 代表、ファイナンシャルプランナー、一般社団法人日本相続支援士会理事、佐賀県金融広報アドバイザー、DCアドバイザー
立命館大学卒業後、13年間大手小売業の販売業務に従事した後、保険会社に転職。1 年間保険会社に勤務後、保険代理店に6 年間勤務。
その後、コンサルティング料だけで活動している独立系ファイナンシャルプランナーと出会い「本当の意味で顧客本位の仕事ができ、大きな価値が提供できる仕事はこれだ」と思い、独立する。
現在は、日本FP協会佐賀支部の副支部長として、消費者向けのイベントや個別相談などで活動している。また、佐賀県金融広報アドバイザーとして消費者トラブルや金融教育など啓発活動にも従事している。
年金受給額の実態
実際に、月額50万円以上の年金を受け取っている人はごく少数です。
厚生年金について見ていくと、厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況調査」では、年金受給者のうち男性で月20万円以上を受け取っているのは全体の24.0%に過ぎません。
女性ではさらに少なく、わずか11.3%しかいません。全体の年金額の平均は月額14万6429円で、男性は16万6606円、女性は10万7200円となっています。
また、年金受給者の分布を見ると、男性は約6割が月額15万円以上を受け取っているのに対し、女性は4割以上が月額10万円未満です。これらのデータから、月額50万円以上の年金を受け取っている人の割合はさらに少ないことが推測されます。
在職老齢年金制度の概要
在職老齢年金制度とは、60歳以上で厚生年金保険に加入しながら働く人の年金支給額を調整する仕組みです。この制度では、「会社の報酬の1ヶ月分」と「年金の1ヶ月分」の合計が一定額(2024年度は50万円、2025年度は51万円)を超えると、超過額の半分が年金から差し引かれます。
例えば、会社からの月収が38万円で年金が月15万円のシニア社員の場合、2025年度の計算は以下のようになります。
年金から差し引かれる金額={(38万円+15万円)-51万円}÷2=1万円
つまり、本来15万円の年金が14万円に減額され、年間では12万円のマイナスとなります。
基準額引き上げの背景
在職老齢年金の基準額は、厚生年金に加入している現役男性被保険者の「賞与を含んだ平均月収額」を基に設定され、名目賃金の変動に応じて毎年見直されます。2025年度は名目賃金の変動により、基準額が1万円引き上げられて「51万円の壁」となります。
これは2023年度、2024年度に続く3年連続の基準額引き上げとなります。高齢者の収入水準が上昇していることや、経済状況の変化に応じた制度の見直しが背景にあります。
年金の満額分をもらいながら働く方法
年金を満額受け取りながら働くには、主に2つの方法があります。
1. 収入調整
給与と賞与と年金の合計が基準額(2025年度は51万円)を超えないよう調整する。具体的には、給与や賞与を抑える、または年間の収入を均等に分配するなどの工夫が必要です。
2. 厚生年金保険に加入しない働き方
自営業やフリーランス、業務委託などの形態で働けば、在職老齢年金制度は適用されません。つまり、収入が基準額を超えても年金は減額されません。
まとめ
在職老齢年金制度の「壁」について、2025年度は51万円に引き上げられました。月額50万円以上の年金を受け取る人は非常に少数であり、多くの高齢者にとって年金だけでは老後の生活を十分に賄うことは難しい状況です。そのため、年金と就労収入を組み合わせた生活設計が重要となっています。
高齢者の働き方や年金制度は常に経済社会の変化に影響を受けるため、最新情報に注意しながら、自分に合った働き方を選択することが重要です。
出典
厚生労働省 厚生年金保険・国民年金事業の概況
総務省統計局 e-Stat 年金制度基礎調査
執筆者 : 廣重啓二郎
佐賀FPオフィス 代表、ファイナンシャルプランナー、一般社団法人日本相続支援士会理事、佐賀県金融広報アドバイザー、DCアドバイザー
