遺族年金が「5年で打ち切り」になったら…50歳で職歴“空白期間あり”の専業主婦は、制度から切り捨てられる?「見直しの影響がない人」の要件とは
本記事では、今回の見直しで変わった点や、専業主婦やパートの人がどのように対処するべきなのかを解説します。
2級ファイナンシャルプランニング技能士
遺族厚生年金とは
日本国民は、原則として20歳以上になると国民年金に加入します。さらに会社員や公務員になると、国民年金に加えて厚生年金にも加わります。
年金をもらう前に病気などで亡くなったときに、保険料の納付期間など一定の条件を満たしていれば、残された遺族が年金を受け取れる制度が「遺族年金」です。遺族年金には、国民年金から支給される「遺族基礎年金」と厚生年金から支給される「遺族厚生年金」があります。
今回話題になっているのは、遺族厚生年金のほうです。
今回の見直しで何が変わった?
2025年5月から6月に行われた通常国会で、遺族厚生年金が大きく見直されました。変更点を説明します。
見直し前と見直し後の比較
見直し前は、男性と女性で遺族厚生年金の受給条件が大きく異なっていました。見直し後は、図表1のように男女差が解消されています。
図表1
※厚生労働省HPより筆者作成
見直されたのは図表1の内容だけではありません。見直し前は、遺族の収入が「年収850万円未満」でなければ支給されませんでしたが、これが廃止されています。さらに、遺族厚生年金に「有期給付加算」や「死亡分割」によるプラスが加わり、従来よりも年金額が増額されています。
現在の制度が適用される人
今回の見直しはただちに実施されるものではありません。男性は2028年4月から実施、女性は2028年4月から20年かけて段階的に実施されます。そのため、以下のように見直しの影響がない人もいます。
・60歳以上で死別
・子どもを養育している
・改正前から遺族厚生年金を受け取っている
・2028年度に40歳以上になる女性
今回の事例でいうと、50歳の専業主婦は「2028年度に40歳以上になる女性」に該当するため、遺族厚生年金が5年で打ち切りになることはありません。
専業主婦やパートだった人はどうすれば良い?
今回の事例の女性のケースだと改正による変更点はありませんでしたが、改正後の制度が適用される人の中には、不安を感じている人もいるでしょう。
しかし今回の見直しは、一部の人々を切り捨てる政策ではありません。図表1をもう一度見てもらえれば分かるように「5年間の給付」は「原則」とされています。「配慮が必要な場合」は5年目以降も給付が継続されます。配慮が必要な場合とは以下のとおりです。
・障害状態にある(障害年金受給権者)
・収入が十分でない
収入が十分でない目安は、一人暮らしの場合で1ヶ月の収入が約10万円以下です。10万円以下の収入なら、遺族厚生年金が全額支給されます。それ以上収入があるときは、収入と年金の合計額がゆるやかに増加するよう徐々に支給額が減らされていき、月額20万円から30万円を超えると支給が打ち切られる仕組みです。
つまり、専業主婦やパートなどで十分な収入がなければ、5年目以降も遺族厚生年金は支給が続きます。そうはいっても、人によって生活に必要な金額はさまざまです。生活するのに必要なお金を実際に計算してみて、遺族年金だけでは足りない場合は、今のうちから貯金や投資などでお金を貯めておく必要があるでしょう。
まとめ
今回、遺族厚生年金について大きな見直しが行われ、子どもがいない夫婦が60歳未満で死別した際の支給は原則5年になりました。ただし、残された人の収入が十分でないケースなどでは、5年後も継続して支給されます。
大切なのは、必要な生活費や支給される遺族年金を計算するなど、もしものときのシミュレーションをしてみることです。シミュレーションの結果、お金が足りないとなれば、今のうちから備えておくことが大切でしょう。
出典
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについて
執筆者 : 山根厚介
2級ファイナンシャルプランニング技能士

