年金受給者には「50万円の壁」もあるそうですが、どのような壁なのでしょうか?

配信日: 2025.07.21 更新日: 2025.10.21
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年金受給者には「50万円の壁」もあるそうですが、どのような壁なのでしょうか?
年金受給者が会社員として働き続けた場合、年金と給与収入の合計額が一定額を超えると、年金の一部または全部が停止される「在職老齢年金制度」の適用を受けます。年金の一部停止が始まる額が、いわゆる「50万円の壁」といわれています。
 
今回は、在職老齢年金制度について詳しく解説します。
辻章嗣

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

在職老齢年金制度とは

在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受給しながら、厚生年金の被保険者として働き給与収入を得ている場合に、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金の一部または全部が支給停止となる制度です(※1)。
 
厚生年金の被保険者は70歳までとなっていますが、70歳以上の方が厚生年金保険の適用事業所で働く場合も、在職老齢年金制度が適用されます。
 

1. 老齢厚生年金の基本月額とは

加給年金額を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分の年金額を、12で割った額です。
 

2. 総報酬月額相当額とは

その月の「標準報酬月額」に、その月以前1年間の「標準賞与額」の合計額を12で割った額を加えたものです。
 
標準報酬月額とは、基本給のほか役付手当、通勤手当、残業手当などの各種手当を加えた「報酬月額」を1等級から32等級まで区分し、その等級に該当する額をいいます(※2)。
 
また「標準賞与額」とは、支払われた賞与額の1000円未満を切り捨てた額をいいます(※3)。
 
したがって「総報酬月額相当額」は、その月前1年間の給与収入を12月で割った値にほぼ等しくなります。
 
なお、70歳以上の方の場合、「標準報酬月額」は「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額」は「標準賞与額に相当する額」として計算されます。
 

在職老齢年金の計算方法

在職老齢年金は、基本月額と総報酬月額相当額の合計額から、以下のように算定されます(※1)。
 

1. (基本月額+総報酬月額相当額)が支給停止調整額以下の場合

老齢厚生年金は、全額支給されます。なお、令和7年度の支給停止調整額は51万円になります。
 

2. (基本月額+総報酬月額相当額)が支給停止調整額を超える場合

基本月額と総報酬月額相当額の合計額から、支給停止調整額を差し引いた額の半額が、支給停止となります。
 
年金の停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額(51万円))÷2
 

3. 総報酬月額相当額が(基本月額+支給停止調整額)を超える場合

総報酬月額相当額が、基本月額に支給停止調整額を加えた額を超えると、年金の全額が停止されます。年金の停止額が基本月額に等しくなる値、すなわち年金が全額支給停止される額を計算すると、下式のとおりです。
 
基本月額≦(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2
総報酬月額相当額≧基本月額+支給停止調整額

 
すなわち総報酬月額相当額が、基本月額に支給停止調整額を加えた額を超えると、年金の全額が停止されます。令和7年度は、総報酬月額相当額が、基本月額に51万円を加えた額を超えるとき、年金が全額支給停止となります。
 

年金受給者が会社員として働く場合の注意点

この項では、老齢厚生年金を受給しながら会社員として働く場合の注意点を見てみましょう。
 

1. 在職老齢年金制度により、年金が一部または全部支給停止されることがある

基本月額と総報酬月額相当額の合計額が、支給停止調整額(令和7年度の場合、51万円)を超えると、年金の一部または全部が停止されます。
 

2. 在職老齢年金制度により年金が全額停止されると、加給年金も支給されない

在職老齢年金制度により、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合、加給年金も支給停止となります。ただし、老齢厚生年金が一部支給停止になる場合も、加給年金は全額支給されます。
 

3. 老齢厚生年金を繰下げても在職老齢年金制度が適用される

老齢厚生年金を繰下げて受給する場合、繰下げ月数に0.7%を乗じた増額率に応じて老齢厚生年金が上乗せ(繰下げ加算額)されますが、在職老齢年金制度が適用された年金額のみが上乗せ対象となり、支給停止となる額は反映されません(※4)。
 
図表1

図表1

 

4. 老齢基礎年金に在職老齢年金制度はない

在職老齢年金制度の適用を受けて、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されている場合でも、老齢基礎年金は支給停止されません。また、老齢厚生年金を受給しながら働く自営業者などは厚生年金の被保険者とはなりませんので、収入にかかわらず在職老齢年金制度が適用されることはありません。
 

まとめ

老齢厚生年金を受給しながら会社員として働く場合、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が51万円(令和7年度額)を超えると、年金が一部支給停止されます。年金を受給しながら働く場合は、在職老齢年金制度を理解して働き方を工夫するとよいでしょう。
 

出典

(※1)日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
(※2)日本年金機構 年金用語集 は行 標準報酬月額
(※3)日本年金機構 年金用語集 は行 標準賞与額
(※4)日本年金機構 年金の繰下げ受給
 
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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