現在67歳で年金受給を繰下げて働いていますが、そろそろ「退職」を考えています。68歳まで年金受給を繰下げると「月々の受給額」がどのくらい増えますか?

配信日: 2025.07.30 更新日: 2025.10.21
この記事は約 5 分で読めます。
現在67歳で年金受給を繰下げて働いていますが、そろそろ「退職」を考えています。68歳まで年金受給を繰下げると「月々の受給額」がどのくらい増えますか?
働きながら年金の受給を繰下げてきた方のなかには、「そろそろ退職して年金を受け取り始めようか」と考える人も多いのではないでしょうか。年金の受け取り開始をさらに1年延ばして68歳にすると、その分、年金額が増えることになります。
 
本記事では現在67歳の方を例にして、繰下げ受給によってどのくらい年金が増えるのか、またその判断をするうえでの注意点について解説します。
小山英斗

CFP(日本FP協会認定会員)

1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ

人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。

「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
https://miraiken.amebaownd.com/

年金を繰下げると、1ヶ月あたり0.7%増える

現在の年金制度では、原則65歳から年金を受け取ることができますが、この受け取り時期を遅らせることで、月々の受給額が増える仕組みがあります。これが、「年金の繰下げ受給」です。繰下げた場合の増額率は、「1ヶ月あたり0.7%」となっています。
 
年金を1年繰下げると、「0.7% × 12ヶ月(1年) = 8.4%」の増額となります。
 
また、年金の受給開始は最大75歳まで繰下げることが可能です。75歳まで繰下げると、増額率は最大84%にもなります。
 

67歳と68歳、1年間でいくら受給額が違う?

年金受給を67歳と68歳の開始するのではいくらの差が出るのか、具体的な受給額の例を見ていきましょう。仮に、65歳時点での年金額(老齢基礎年金+老齢厚生年金の合計)が月15万円だとした場合の受給額は図表1のとおりです。
 
図表1

67歳から受給開始する場合 68歳から受給開始する場合
65歳時点から2年間の繰下げにより
「16.8%増」となります。

増額される受給額の計算式
月15万円 × 1.168 = 約月17万5000円

65歳時点から3年間の繰下げにより
「25.2%増」となります。

増額される受給額の計算式
月15万円 × 1.252= 約月18万8000円

筆者作成
 
67歳からの年金受給開始を68歳まで1年延ばすことで、月あたり約1万3000円の増額が期待できます。年単位に換算すると、約15万6000円の差となります。これが一生続くのですから、決して小さな額ではありません。
 

受給総額の損得は「寿命」がカギ

年金の繰下げ受給によって月々の年金が増える一方、繰下げている間は年金を受け取れません。そのため、受給総額で考えたとき、いつから受け取り始めるのがよいかが気になるところです。
 
一般的に、繰下げ受給の損益分岐点は、繰下げた年齢に応じて77~86歳前後となります。例えば、65歳時点の年金額を月15万円として試算した場合、繰下げた年齢ごとの損益分岐点となる年齢は図表2のようになります。
 
図表2

受給開始年齢 受給率 年金額(年額) 損益分岐点
65歳 100.0% 180万円
66歳 108.4% 195万1200円 77歳
67歳 116.8% 210万2400円 78歳
68歳 125.2% 225万3600円 79歳
69歳 133.6% 240万4800円 80歳
70歳 142.0% 255万6000円 81歳
71歳 150.4% 270万7200円 82歳
72歳 158.8% 285万8400円 83歳
73歳 167.2% 300万9600円 84歳
74歳 175.6% 316万800円 85歳
75歳 184.0% 331万2000円 86歳

出典)日本年金機構「年金の繰下げ受給」の「繰下げ増額早見表」より筆者試算
 
つまり、図表2の試算では、例えば繰下げで68歳から年金を受け取ろうとする場合、79歳以上生きると考えるなら、65歳から受け取るよりも、受給総額が得になるという計算になります。
 
そのため、受給総額の損得は「寿命」がカギの一つとなります。ちなみに、厚生労働省の「簡易生命表(令和5年)」によると、平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳となっています。
 
また、平均寿命とは別に「健康寿命」という考え方もあります。健康寿命は健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことをいいます。健康寿命は、男性で約72歳、女性で約75歳ともいわれています。
 
高齢になるほど働き続けることも、無年金期間を貯蓄で補うことも難しくなることから、多くの人にとっては繰下げをするにしても70歳あたりまでが現実的な繰下げの目安といえるかもしれません。
 

あなたにとって最適な繰下げの時期は?

繰下げ受給は、「長生きする人」に有利な制度です。健康状態や家族の寿命、自分の生活費、貯蓄額なども踏まえて、総合的に判断する必要があります。
 
特に次のような人は、繰下げを検討する価値があるでしょう:

●健康に自信があり、長生きする見込みがある
●労働収入や年金に頼らずとも老後の生活ができるだけの蓄えがある
●月々の年金額を増やして老後の安心感を高めたい

一方で、病気の不安がある、貯蓄が少ない、家計が厳しいといった事情がある人は、繰下げよりも早めの受給(繰上げ受給)を選んだほうがよい場合もあります。
 
「年金の繰上げ受給」は、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰上げて年金を受け取ることができる制度です。ただし、繰上げた場合の減額率は「1ヶ月あたり0.4%」となり、60歳まで繰上げた場合は最大で24%の減額となります。
 
なお、昭和37年4月1日以前生まれの人の減額率は、1ヶ月あたり0.5%(最大30%)となります。減額率は一生変わらないので、繰上げは慎重に判断する必要があります。
 

まとめ

年金の受給を1年繰下げると、年金額は8.4%増加し、場合によっては数万円単位で毎月の年金額が増えることもあります。この増額は一生続くため、老後の収入の柱として非常に心強いものになります。
 
ただし、その分「受け取り開始まで無年金」であることも事実です。自身の健康、生活資金、将来設計をしっかり検討したうえで、最適な受給時期を見極めていくことが大切です。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 年金の繰上げ受給
厚生労働省 令和5年簡易生命表の概況
 
執筆者 : 小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)

  • line
  • hatebu
【PR】 SP_LAND_02
FF_お金にまつわる悩み・疑問