結婚してからずっと“専業主婦”で夫の扶養に入ってきました。「年金制度改革」があったことで、もらえる“年金が減る“のでしょうか?
今回は、国民年金の第3号被保険者制度および年金制度改革について解説するとともに、その対策を考えます。
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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第3号被保険者制度と2025年度年金制度改革とは
1. 国民年金の被保険者区分
国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての方が被保険者となります。そして、被保険者は、自営業者や学生などの第1号被保険者、会社員や公務員など厚生年金に加入している第2号被保険者、そして第2号被保険者に扶養されている配偶者の第3号被保険者に区分されています(※1)。
図表1
| 被保険者区分 | 対象者 |
|---|---|
| 第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の農業者、自営業者、学生、無職の人など |
| 第2号被保険者 | 会社員や公務員などで厚生年金の被保険者 |
| 第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されていて、年収130万円未満の20歳以上60歳未満の配偶者 |
(※1をもとに筆者作成)
2. 国民年金の保険料負担
第1号被保険者は、国民年金保険料を自ら納付する義務があります。
第2号被保険者は、給与から厚生年金保険料が徴収され、そのなかから国民年金の負担金という形で国民年金の保険料に充当されます。
第3号被保険者は、第2号被保険者が加入する年金制度が保険料を負担し、自己負担はありません(※1)。
3. 第3号被保険者の問題点
第3号被保険者は、保険料を負担せずに国民年金の加入者として扱われ、老齢基礎年金を受給することができます。この仕組みは、1986年の基礎年金制度導入に伴い始まりましたが、共働き世帯が主流となっている現代においては不公平ではないかとの指摘もあります。
4. 2025年度年金制度改革における指摘事項
2025年度5月に国会に提出され成立した年金制度改革法において、その付則に初めて「第3号被保険者の在り方について国民的な議論が必要であるという認識のもと、その議論に資するような第3号被保険者の実情に関する調査研究を行い、その検討を行うものとする」と記載されました(※2)。
第3号被保険者制度廃止に備える
直ちに、第3号被保険者制度が廃止されることはありません。しかし、万一の廃止に備えて、自分でできる対策を考えてみましょう。
1. 老齢年金の見込み額を確認してみよう
第3号被保険者には、老齢年金の2階部分に相当する老齢厚生年金がありません。したがって、将来、受給する老齢年金の額は老齢基礎年金のみになります。
令和7年度の老齢基礎年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)の国民年金の納付月数や厚生年金の加入期間などに応じて、以下のように年金額が計算されます(※3)。
老齢基礎年金額=83万1700円×(保険料納付済月数÷480月)
仮に、20歳から60歳まで第3号被保険者であったとしても、老齢年金の額は月額で6万9300円余りとなります。
もし、60歳になるまでに第3号被保険者が廃止された場合、第1号被保険者として60歳になるまで国民年金保険料(令和7年度額:1万7510円(※4))を支払うことになります。
2. 厚生年金の被保険者として働く
一方、2025年度年金制度改革では、より多くのパートタイマーなどが厚生年金に加入できるよう、社会保険の加入対象が段階的に拡大されています(※5)。
この改正では、週20時間以上働くパートタイマーを対象として、現在は企業規模が51人以上に限られている要件を段階的に撤廃することになっています。
したがって、今から週20時間以上無理のない範囲で、パートタイマーなどとして働くことを選択すれば、第3号被保険者制度の有無にかかわらず、第2号被保険者として老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受給することができるようになります。
まとめ
会社員の夫に扶養されている専業主婦は、国民年金の第3号被保険者として保険料を自ら負担することなく老齢基礎年金を受給することができます。しかし、夫婦共働きが増えるなど社会環境の変化に伴い、第3号被保険者制度の在り方が検討されています。
一方で、パートタイマー等に対する社会保険の適用範囲が拡大されていますので、扶養の範囲で働くことにこだわらずに、第2号被保険者として働くことを選択してもよいのではないでしょうか。
出典
(※1)日本年金機構 公的年金制度の種類と加入する制度
(※2)厚生労働省 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律
(※3)日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※4)日本年金機構 国民年金保険料
(※5)厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
