【改正】遺族年金が「5年打ち切り」に?「妻のために保険料を払ってきたのに…」夫の社会保険料は“払い損”になる?「改正前・改正後」の受給額を試算
しかし、2028年4月から、遺族年金制度が大きく見直されます。子のいない妻への支給は、これまでの「一生涯給付」から「5年間の有期給付」へと変わるのです。
これにより、妻が受け取れる遺族年金の総額は大幅に減少し、「保険料を払い続けた意味がなくなるのでは」との声も上がっています。
本記事では、平均年収500万円の夫が22歳から50歳まで働いてきたケースをもとに、支払った保険料と、従来制度と改正後制度における受給額の差を具体的に試算します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
遺族年金制度の改正ポイントと理由は?
2028年4月施行の制度改正により、子のいない配偶者への遺族厚生年金は原則「5年間の有期給付」に統一されます(ただし、5年経過後も年収が少ないなど配慮が必要な場合は延長の場合あり)。
また、現在は妻が30歳以上で夫と死別した場合、遺族厚生年金は終身で支給される一方で、男性は55歳未満で妻を亡くしても遺族年金が支払われない仕組みです。今回の見直しにより、60歳未満であれば男女問わず遺族年金を受給できる制度に変わっています。
今回はこの2点が大きく改正され、「大黒柱(夫)を失った家族の長期的補償」から、「男女問わず自立に向けた短期支援」へと大きく見直されたのです。
50歳で夫が死亡した場合、改正前後でどれだけ差がつく?
制度改正により、働く妻を失った夫は新たに遺族年金を受給できるケースがある一方で、働く夫を失った妻の遺族年金受給額は大きく減ってしまいます。実際どれほど影響が出るのでしょうか?
夫が22歳から50歳までの28年間、平均年収500万円(平均標準報酬月額41万円)で働き、厚生年金に加入していたと仮定します。この条件で、子どもがいない妻が50歳のときに夫が亡くなった場合、妻が受け取れる遺族厚生年金は、改正前後でどれだけ変わるか見ていきましょう。
なお、中高齢寡婦加算の廃止や年齢要件の見直しは段階的に進められますが、制度が完全に移行した後に遺族年金を受給するケースを想定して試算しています。
改正前は年約56万6000円の遺族厚生年金が一生涯支給され、さらに65歳までは中高齢寡婦加算(年62万3800円)も加算されます。妻が80歳まで生きた場合(遺族年金を30年間、中高齢寡婦加算を15年間受け取る場合)の総受給額は、約2634万円となります。
改正後は、遺族厚生年金が1.3倍(年約73万6000円)に増額されるものの、受給期間は5年間に限定され、中高齢寡婦加算も段階的に縮小し、将来的には廃止されます。そのため年約73万6000円を5年間受給できるのみとなり、受給総額は約368万円─現在の制度と比較して約2200万円以上の差がついてしまうのです。
ただし、65歳以降は新たに導入される「死亡時分割」により、亡くなった夫の年金記録が分割され、一部妻のものとして記録されます。この仕組みは現在の離婚時分割を参考に制度設計されるとされており、仮に3号分割と同様に夫の年金記録の半分が反映されるとすると、年約37万8000円を65歳から受け取れる計算です。
とはいえ、この金額を加えても、総受給額は約935万円にしかならず、改正前と比べておよそ1700万円の差が生じるのです。
厚生年金は払い損になってしまう?
年収500万円(月収約41万4000円)の会社員は、毎月3万7515円の厚生年金保険料(本人負担分)を納めます。
22歳から50歳まで28年間納めた場合、総支払額は1260万5040円です。改正前の制度であれば、仮に50歳で亡くなったとしても、妻が80歳まで生きた場合に受け取れる遺族厚生年金(中高齢寡婦加算含む)の合計は2630万円にのぼるため、払い損とは言えません。
しかし、制度改正後は遺族厚生年金の支給が5年で終了し、中高齢寡婦加算も廃止されます。死亡時分割制度でもらえる厚生年金を加えても、受給総額は935万円にしかならず、支払額を大きく下回ってしまうのです。
とはいえ、厚生年金は本来、配偶者の生活を支えるためではなく、本人の老後のための制度です。遺族にとっては損に感じられるかもしれませんが、制度の本質を考えれば仕方がない部分もあるでしょう。
年金制度は共働き前提の仕組みに
今回の遺族年金制度改正は、妻が働かない前提の「生涯保障型」から、男女がともに働くことを前提とした「自立支援型」への転換を意味しています。
かつては専業主婦世帯が主流でしたが、いまや共働き世帯が多数派となり、制度も時代に合わせて見直されるのです。もちろん、家族はチーム戦で、夫が働き妻は専業主婦として家を守るという家庭があっても良いでしょう。
とはいえ、夫に何かあったときの備えは考えなければなりません。制度が変わる今だからこそ、民間の保険や貯蓄、収入源の確保といった自助の備えをどう整えるかが、将来の安心につながるでしょう。
出典
厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 は行 報酬比例部分
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
執筆者 : 浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
