「厚生年金に入らなきゃいけないからもっと働いたほうがいい」と言われたけど…。どれくらい働けば損しないの?

配信日: 2025.08.17 更新日: 2025.10.21
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「厚生年金に入らなきゃいけないからもっと働いたほうがいい」と言われたけど…。どれくらい働けば損しないの?
2024年10月から従業員数が51名を超える企業に勤めるパートタイマーは、週の所定労働時間が20時間を超えると社会保険(厚生年金と健康保険)に加入することになりました。社会保険に加入すると、社会保険料が徴収されるため手取り額が減ります。
 
今回は、社会保険が適用される働き方について説明し、手取り額が減らない働き方について解説します。
辻章嗣

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

社会保険が適用される働き方とは

従業員数51人以上(注1)の勤め先に勤務し、以下の4つの条件を満たす働き方をする方には、社会保険が適用されます(※1)。

(1)週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
(2)所定内賃金が月額8万8000円以上(注2)
(3)2ヶ月を超えて雇用される見込みがある
(4)学生ではない

注1:10年かけて段階的に対象企業を拡大し、2035年10月からは全企業が対象となります(※2)。
注2:基本給および諸手当を指します。ただし、通勤手当・残業代・賞与等は含みません(※1)。
 

社会保険料の仕組みと保険料額

社会保険が適用されると、厚生年金保険料と健康保険料が徴収されます。したがって、社会保険が適用されると手取り額がその分減少します。
 

1. 厚生年金保険料の額

厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率(18.3%)を掛けて計算され、事業主と被保険者とが労使折半で負担します(※3)。
 
したがって、所定内賃金が月額8万8000円の方が支払う厚生年金保険料は、以下のとおり月額8052円となり、その分手取り額が減ります。
 
8万8000円×18.3%×1/2=8052円
 

2. 健康保険料の額

健康保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に保険料率を掛けて計算され、事業主と被保険者とが労使折半で負担しますが、加入する健康保険組合により保険料率が異なります。
 
ここでは、多くの中小企業が加入する全国健康保険協会が運営する協会けんぽを例に解説します。協会けんぽの保険料率は、都道府県により異なりますが、東京都の場合9.91%(令和7年度)となっています(※4)。
 
したがって、所定内賃金が月額8万8000円の方が支払う健康保険料は、以下のとおり月額4360円となり、その分手取り額が減ります。
 
8万8000円×9.91%×1/2≒4360円
 
なお、40歳以上で介護保険の第2号被保険者となる方は、健康保険料に合わせて介護保険料も徴収されます。東京都の場合、該当する方の健康保険料率は11.50%です(※4)。
 
したがって、所定内賃金が月額8万8000円の介護保険第2号被保険者の方が支払う健康保険料は、以下のとおり月額5060円となり、その分手取り額が減ります。
 
8万8000円×11.50%×1/2=5060円
 

手取り額が下がらない働き方

上記から、40歳以上で介護保険の第2号被保険者に該当する方が、所定内賃金が月額8万8000円で働いた場合の社会保険料の総額は、「8052円+5060円=1万3112円」になります。
 
したがって、手取り額を減らさないためには、報酬月額が10万1112円以上でなければなりませんが、報酬月額が上がれば社会保険料も次の記載のとおりに上昇します。
 
協会けんぽの保険料額表(※4)によると、報酬月額が10万1112円の場合の標準報酬額は10万4000円となり、支払う健康保険料は5980円、厚生年金保険料が9516円となります。
 
よって、所定内賃金が月額8万8000円の方が手取り額を減らさないためには、報酬月額が10万3496円以上でなければなりません。
 
8万8000円+5980円+9516円=10万3496円
 
なお、報酬月額が8万8000円の方の年収は約106万円、月額10万3496円の方の年収は約125万円となります。
 

社会保険のメリット

社会保険が適用されると、保険料が徴収され手取り額が減るというデメリットがある一方で、メリットもあります。本章では、厚生年金と健康保険に加入するそれぞれのメリットについて紹介します。
 

1. 厚生年金に加入するメリット

厚生年金に加入することにより、国民年金に加えてより充実した保障を得ることが出るようになったり、国民年金にはない厚生年金特有の保障を受けることができるようになったりします。
 
特に、将来受給する老齢年金は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受給することができます。受給できる老齢厚生年金の額は、厚生年金に加入していた期間の平均年収と勤務年数により、次の式で概算できます(※5)。
 
老齢厚生年金の額=平均年収×5.481/1000×勤務年数
 
したがって、年収106万円の方でも10年勤務すれば、5万8099円の老齢年金を受給することができます。
 
106万円×5.481/1000×10年≒5万8099円
 

2. 健康保険に加入するメリット

健康保険加入すると、それまで受けられなかった傷病手当金と出産手当金を受給できるようになります(※1)。
 
傷病手当金は、業務外の事由による療養のため働けないときに、働けなくなった日から起算して4日目以降の仕事に就けなかった日から、最長1年6ヶ月間、平均賃金の3分の2相当額が支給されます(※6)。
 
出産手当金は、被保険者が出産のために会社を休み、報酬が受けられないときに、産前42日・産後56日の間、平均賃金の3分の2相当額が支給されます(※7)。
 

まとめ

一定の要件を満たす週20時間以上働くパートタイマーには、段階的に社会保険が適用されるようになります。社会保険が適用されると、社会保険料を支払う必要がありその分手取り額が減少するデメリットもあります。年収106万円の方が手取り額を減らさないためには、年収125万円以上の働き方をする必要があります。
 
一方、社会保険の適用を受けないように、働き方をひかえることもできますが、社会保障が充実するするメリットも大きいことから、社会保険の適用を回避するより、積極的に働くことをお勧めします。
 

出典

(※1)厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
(※2)厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
(※3)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※4)全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)
(※5)日本年金機構 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※6)全国健康保険協会(協会けんぽ) 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
(※7)全国健康保険協会(協会けんぽ) 出産で会社を休んだとき
 
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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