年金の受給額を増やすために、繰下げ受給を選び65歳を超えても働き続けた父。受給前に亡くなりました。本来もらえるはずの年金は消えてしまうのでしょうか?
しかし、受給前に亡くなった場合に受け取っていない年金はどうなるのでしょうか。本記事で説明していきます。
夢実現プランナー
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未支給年金で受け取ることが可能
内閣府の「令和6年度 高齢社会対策総合調査」によると、60歳以上を対象に「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」という質問に対して、回答者2188名中で「65歳くらいまで」と回答した人が23.7%と一番多くなっていますが、次いで「働けるうちはいつまでも」と回答した人が22.4%と高くなっています。
3番目が「70歳くらいまで」が20.0%と、65歳以上も働きたいと思っている人は50%以上となっています。
この結果から、年金を受給できるようになっても、働き続けたいという人が多いことが見えてきます。
65歳以降の年金の受け取り方は、年金を受け取りながら働き続ける方法もありますが、年金の繰下げ受給を選ぶという人もいると思われます。
繰下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方を選ぶことも可能です。
また、繰下げ受給を選んだ場合は、繰下げた月数に0.7%を乗じた割合で年金額を増やすことができます。例えば、年金受給を75歳まで繰下げると、最大で84%(0.7%×120ヶ月=84%)の増額が可能です。
では、繰下げ受給を選んだ場合、受給前に亡くなり、受け取っていない年金はどうなるのかというと、年金を受け取ることができるようになった65歳から受け取れるはずだった年金を一括で受け取ることができます。
未支給年金を受け取れる人と注意点
受け取っていない年金は「未支給年金」として扱われ、遺族などが必要書類を準備して年金事務所に提出することになります。必要書類は、以下のとおりです。
●未支給年金請求書
●亡くなった方の死亡診断書か除籍謄本
●住民票(世帯全員分)
●年金手帳か基礎年金番号がわかる書類
●請求する方の通帳がキャッシュカードのコピー
また、受け取れる人の範囲は生計を一にする3親等までの遺族で、以下の優先順位で受け取ることができます。
1. 配偶者
2. 子ども
3. 両親
4. 孫
5. 祖父母
6. 兄弟姉妹
7.上記以外の3親等内親族
受け取れる年金の期間は、65歳から亡くなった月の年金分までを受け取ることができます。
ただし、前述の例のように繰下げ受給を選んでいた場合に、本来、受け取れる額は、繰下げした月数に0.7%を乗じた額を上乗せして受け取れますが、未支給年金の場合は、基本の年金額しか受け取ることができません。
今回の例のように、本人が繰下げ受給を考えていたとしても、本人が死亡した場合、本人からは繰下げ受給を請求することができません。この場合は、遺族などが「未支給年金」として請求することになります。さらに、未支給年金の場合も年金の時効が適用され、70歳を過ぎて請求を行った場合は5年分の年金額が最高額になるので注意が必要です。
遺族年金の受け取り
老齢年金には、老齢基礎年金と老齢厚生年金があります。老齢基礎年金は年金加入者個人の権利という側面が大きいのではないかと思われますが、老齢厚生年金ではそれまで扶養されていた配偶者に対しても保障が含まれています。
65歳以降に老齢基礎年金を受給中に亡くなったとしても、配偶者に18歳になった年度末までの子がいない場合、遺族基礎年金はありません。一方、老齢厚生年金を受給中に亡くなった場合には、配偶者には受給している老齢厚生年金の報酬比例部分の額の4分の3を遺族厚生年金として受け取ることができます。
繰下げ受給の待機期間中に亡くなった場合の遺族厚生年金に対しても、繰下げ受給を行う前の65歳から本来もらえる年金額から算出することになります。
まとめ
令和4年4月より、繰下げ受給が最長75歳までできるようになりました。繰下げ受給をすることによって、最大で84%年金が増えるというメリットがあります。ただし、待機期間中に亡くなった場合には、繰下げ受給の対象とはならず未支給年金の受け取りとなります。
未支給年金の受け取りは一定の親族の範囲内で、一括で受け取りますが、繰下げ受給でもらえるはずの増額はなく、65歳から受け取る場合の年金額を受け取ることになります。
また、遺族厚生年金も繰下げ受給後に亡くなった場合は、増額分を含めた額で遺族厚生年金が計算されますが、未支給年金の場合は、65歳からの年金額から遺族厚生年金が計算されます。
増額になるというメリットだけではなく、デメリットについても確認して、最終判断を行うようにしましょう。
出典
内閣府 令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果(概要版)
日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 年金を受けている方が亡くなったとき
執筆者 : 吉野裕一
夢実現プランナー
