「まだ働けるから75歳まで年金は繰下げる」と話す母。途中で働けなくなった場合、申請すればすぐに受給を開始できるのでしょうか?
今回は、老齢年金の繰下げ受給について、詳しく解説します。
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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老齢年金の繰下げ受給制度
老齢年金は、原則65歳から受給することができますが、65歳で受給を開始せずに66歳以降75歳になるまで繰下げて受け取ることができます(※1)。
老齢年金の繰下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて繰下げることもできますし、片方のみ繰下げることもできます。老齢年金を繰下げて受給した場合、繰下げた月数に応じて加算額が加えられた年金を生涯受け取ることができます。
加算額は、本来受給する老齢年金に増額率を乗じて求めます(図表1)。
増額率(最大84%)=0.7%×繰下げた月数※
※65歳に達した月から繰下げを申し出た月の前月までの月数
繰下げ加算額=本来受給する年金額×増額率
図表1
(※1を基に筆者作成)
なお、在職老齢年金制度により支給停止される額は、増額の対象とはなりません(図表2)。
図表2
(※1を基に筆者作成)
繰下げた年金の受給方法
繰下げていた老齢年金を受給する方法には、繰下げ受給する方法と、65歳までさかのぼって受け取る方法があります。なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ異なる方法で受け取ることもできます(※1、2)。
1. 繰下げて受給する方法
老齢年金を繰下げて受給する方法は、66歳以降に繰下げ受給を希望するタイミングで「老齢年金裁定請求書/支給繰下げ請求書」(※2)にその旨を記載して年金事務所に提出することで、繰下げ加算額を含む年金を受給することができます。
2. 65歳までさかのぼって受給する方法
繰下げていた年金を65歳にさかのぼって受給する方法は、受給を希望するタイミングで「老齢年金裁定請求書/支給繰下げ請求書」(※2)にその旨を記載して年金事務所に提出することで、本来65歳から受給する年金をまとめて受給することができます。なおこの場合、繰下げ加算額は原則として加算されません。
3. 70歳以降に65歳までさかのぼって受給する方法(特例制度)
70歳以降に65歳にさかのぼって受給することを選択した場合、特例的な繰下げみなし増額制度が適用され、請求の5年前の時点で繰下げ請求があったものとみなして、増額された年金を5年分まとめて受給することができます(図表3)。また、請求後も増額された年金が生涯支給されます。
図表3
(※1を基に筆者作成)
繰下げ受給の注意点
繰下げ受給する際の注意点について説明します(※1)。
1. 加給年金額や振替加算額は、繰下げ加算の対象となりません。また、繰下げ待機中は加給年金や振替加算を受け取ることができません。したがって、加給年金を受給できる人は、老齢厚生年金を繰下げせずに、老齢基礎年金のみの繰下げを検討するとよいでしょう。
2. 障害年金や遺族年金を受け取る権利がある人は、老齢年金を繰下げることはできません。
3. 繰下げ受給により増額された年金を受給すると、医療保険や介護保険の保険料や自己負担割合が高くなることがありますので、注意が必要です。
まとめ
老齢年金は、75歳まで繰下げて増額された年金を受給することができます。繰下げている年金は、75歳になるまでの間であれば、いつでも繰下げ受給の請求をすることができます。また、病気などでまとまった資金が必要になった場合は、65歳までさかのぼって年金をまとめて受け取ることもできます。
したがって、退職やその他の状況に応じて、適切なタイミングで相応しい受給方法を選択し、請求手続きを行うとよいでしょう。
出典
(※1)日本年金機構 年金の繰下げ受給
(※2)日本年金機構 66歳以後に年金の請求(繰下げ請求または65歳にさかのぼって請求)をするとき
※2025/8/20 執筆者に誤りがあったため、修正いたしました。
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士



