63歳で「繰上げ受給」すると、65歳からの受給より「生涯で200万円少なくなる」と言われました。本当でしょうか?
この記事では、繰上げ受給の基本的な仕組みや損益分岐の考え方を整理し、「200万円損」という言葉がどのような条件で出てくるのかを分かりやすく解説します。
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目次
63歳からだと年金額はどれくらい減る?
老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則として65歳から受給が始まりますが、本人の希望により60歳から64歳までの間に繰上げて受け取ることが可能です。ただし、繰上げ受給を選択すると、年金額が減額される点に注意が必要です。
63歳から繰上げ受給を開始する場合、65歳になるまでの24ヶ月分早くもらえる代わりに、毎月の年金額が「0.4%×24ヶ月=9.6%」減額されます。この減額率は生涯にわたって適用され、一度手続きをすると原則として取り消すことはできません。
ちなみに、2025年度の老齢基礎年金(満額)は、昭和31年4月2日以後生まれで月額6万9308円(年額83万1696円)、昭和31年4月1日以前生まれで月額6万9108円(年額82万9296円)です。
実際に受け取る年金額は、これに老齢厚生年金が加算されるため、人によって大きく異なります。ご自身の正確な年金見込み額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」、公的年金シミュレーターで確認することをおすすめします。
生涯受給額の損益分岐点は「およそ84歳」
繰上げ受給を検討する際に気になるのが、「何歳まで生きると、65歳から受給した方が得になるのか」という損益分岐点です。ここでは、その計算方法を見ていきましょう。
例えば、65歳から受け取る場合の年金月額を「M円」とします。この場合、63歳から繰上げて受け取る月額は9.6%減の「0.904M円」となります。63歳から65歳になるまでの2年間(24ヶ月)は、繰上げた分だけ年金を先に受け取れるため得になりますが、65歳以降は毎月「M円」と「0.904M円」の差額である「0.096M円」ずつ、受給額が少なくなります。
この差額が積み重なり、63歳から受け取った場合と65歳から受け取った場合の生涯受給総額が同じになるのは、65歳から約226ヶ月後、年齢にすると83歳10ヶ月ごろです。つまり、損益分岐点はおおむね84歳となります。
厚生労働省が2024年に公表した「令和5年 簡易生命表」によると、日本の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳です。損益分岐年齢が平均寿命と近いことを考えると、ご自身の健康状態やライフプランを踏まえて慎重に検討することが重要だといえるでしょう。
「200万円損」はどんな条件で起きるか
それでは、冒頭の「生涯で200万円損をする」というのは、どのようなケースで起こり得るのでしょうか。これは、受給する年金の月額と、何歳まで生きるかによって大きく変わります。
例として、65歳から受け取る老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計月額が15万円でシミュレーションしてみましょう。
63歳から繰上げ受給をすると、月額は9.6%減の13万5600円になります。
・63歳から65歳になるまでの2年間で先に受け取る金額の合計は、約325万4400円
・65歳以降は、毎月の受給額が通常より1万4400円少なくなる
この条件で生涯の累計受給額を比べると、80歳時点ではなお繰上げ受給の方が多くなりますが、損益分岐点である84歳前後で両者がほぼ同じになり、それ以降は65歳開始の方が累計で上回るようになります。
例えば、90歳時点では差が約106万円、95歳時点ではおよそ193万円になります。もし65歳からの年金月額が16万円であれば、95歳時点では差が約206万円となります。
つまり、「生涯で200万円損」という言い方は、65歳からの年金月額が15〜16万円程度で、90代半ばまで長生きした場合などに成立する試算であるといえるでしょう。
また、実際に生活に使える金額を考える際には、税金や社会保険料の負担も加えた「手取り額」で比較することが重要です。
63歳から年金を受け取ると、毎月の年金額が9.6%減額され、それが生涯続く
63歳からの年金繰上げ受給は、2年分を早く受け取れるというメリットがある一方で、毎月の年金額が9.6%減額され、それが生涯続くというデメリットもあります。
65歳からの受給と比べた生涯受給総額の損益分岐点は84歳前後であり、「200万円損をする」という数字は、あくまで特定の年金額や寿命といった条件下で起こり得る一例にすぎません。
最終的な損得は、ご自身の年金見込み額や健康状態、就労状況、ライフプランによって大きく異なります。繰上げ受給を検討する際は、「ねんきんネット」や公的年金シミュレーターなどを活用してご自身のケースで試算し、後悔のない選択をすることが重要です。
出典
日本年金機構「年金の繰上げ受給」
日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
