2028年4月に「遺族厚生年金」が見直されるようですが、子どもがいないわが家にはどのような影響がありますか?
特に厚生年金の加入者にとっては重要な変更点がありますので、本記事で解説します。
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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遺族年金(現行制度)の概要
遺族年金は、国民年金もしくは厚生年金保険に加入中などの方が亡くなったときに、その方に生計を維持されていた遺族が受けることができます。
遺族年金は亡くなった方が加入していた年金の状況などによって異なり、自営業者などの方は「遺族基礎年金」、会社員などの方は「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」が支給されます。それぞれの受給対象者は、以下のとおりです。
<遺族基礎年金の受給対象者>
亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に限られます。
<遺族厚生年金の受給対象者>
遺族基礎年金と比べてみると、対象となる範囲が広くなります。前提として、“亡くなった方に生計を維持されていた方”です。
(1) 配偶者
(2) 子
(3) 父母
(4) 孫
(5) 祖父母
ただし、遺族厚生年金の受給対象者のなかで、夫・父母・祖父母に関しては注意点があります。
まず、死亡時において55歳以上であることが受給の条件です。さらに、支給開始は60歳からです。もう一点、妻の死亡時に55歳未満の夫は受給できません。ただし子がいれば、子が遺族厚生年金を受給できます。
なお、「生計を維持されている」とは、生計を同じくしており(同居に限らない)、前年の収入が850万円未満(所得が655万5000円未満)である場合をいいます。また、年金制度において「子」というのは、18歳になった年度の3月31日までの子、または20歳未満の障害等級1・2級の子をいいます。
遺族年金は、いつまで、いくらもらえるか気になる点ではないでしょうか。まずは、いつまでもらえるか見てみましょう。
遺族基礎年金は、末子が18歳に到達する年度の3月31日まで受け取ることができます。
遺族厚生年金は、夫が亡くなったケースにおいては、「子がいない」かつ「30歳未満」の妻であれば5年間の期間限定(有期給付)となることが決定しました。ただし、「30歳以上」であれば生涯にわたり受給が可能です。
一方妻が亡くなったケースでは、55歳以上の夫は、60歳から生涯受給することが可能ですが、“子どもがいないこと”が前提です。このように、遺族厚生年金には大きな男女差が大きくあります。
次に、いくらもらえるか見てみましょう。
<遺族基礎年金>
目安として2025年度を確認すると、遺族基礎年金は一律で、その金額は83万1700円です。子どもが1人目・2人目=23万9300円、3人目以降=各7万9800円が加算されますので、対象の方は知っておきましょう。
例えば、妻に加え子どもが1人いるケースでは、遺族基礎年金:年107万1000円(=83万1700円+23万9300円)です(2025年度)。
<遺族厚生年金>
死亡した方の「老齢厚生年金の4分の3」です。厚生年金の加入期間・平均収入により異なるため、人により金額が違います。
加入期間が短い若い方は年金額が少なくなってしまいます。そこで、加入期間が25年(300ヶ月)に満たない方については、計算上「300ヶ月」となり、年金額に反映されます。
また、夫が死亡した妻については、遺族厚生年金に上乗せされる「中高齢寡婦加算」の対象です。ただし、妻を亡くした夫は対象にはならず、ここにも大きな男女格差があります。
受給可能なのは、「夫と死別してしまったときに、子がいる妻で遺族基礎年金の支給が終了した時点で40歳以上の場合」や、「夫と死別してしまったときに、18歳年度末までの子のない40歳以上の妻」で、妻が65歳になるまで加算が続きます(2025年度の加算額は年額62万3800円)。
次項に記載の「遺族年金の改正」について、便宜上、原則、夫が亡くなったケースで説明します。ポイントは、男女差の解消です。
遺族基礎年金はどう変わる?
まず、子どもに支給される遺族基礎年金について、支給停止要件の見直しが行われました。
夫の死後、子の生計を維持している妻が別の人と再婚すると「遺族基礎年金」は、
<改正前>妻と子どちらも受け取れない
<改正後>子のみ、受給することが可能
となります。
また、以下のケースにおいても、子のみ、遺族基礎年金を受けられるようになります。
●子どもの生計を維持している妻の収入が850万円以上の場合
●子が祖父母の養子になる場合
●夫が亡くなった後に、元妻が子を引き取る場合
子に加算される金額については、2024年度については年23万4800円でした。それが、28万1700円になりますので、「増える」と感じる方もいるでしょう。
遺族厚生年金はどうなる?
1. 給付期間が見直される
制度改正が行われると、男性・女性問わず、60歳未満で死別してしまったとき、子がいないケースにおいては原則有期給付となります。”有期“とは「5年間」です。
さらに、有期給付の「年収850万円未満」という年収要件がなくなります。つまり、60歳以降で死別した場合は生涯受給となり、これは現行どおりです。
子がいるケースについては、その子が18歳年度末を迎えた後であっても有期給付(5年間)の対象になるので、不安が少し払拭されたという方もいるでしょう。
2. 年金額が増額! -有期給付加算-
この5年有期給付の額は、現在の年金額より増額されることになります。その増額率は約1.3倍に決まりました。
では、「5年の有期給付が終了したらどうなるのだろう?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。それは、「障害年金の受給権がある者」や「生活するうえで収入が十分でない(単身の場合で就労収入月額約10万円以下)の方」など配慮が必要な方は、5年目以降も続けて増額された金額を受けることが可能となります。
なお、以下の方は改正の影響を受けませんので安心してください。
●2028年度に40歳以上になる女性
●すでに遺族厚生年金を受給している方
●60歳以降に遺族厚生年金を受給する権利が発生する方
3. 段階的ではあるが、中高齢寡婦加算は縮小が決定
2028年度以降に「中高齢寡婦加算」が縮小されます。金額については、25年かけて(2053年度まで)段階的に縮小されることとなります。
なお、以下の方については見直しの影響はありませんので心配はいりません。
●中高齢寡婦加算の対象になって“いない”妻
●施行される以前より中高齢寡婦加算を受けている妻
4. 新たに創られる制度もあり -死亡分割-
現行制度では、離婚時の年金分割と違い、夫と死別の場合、妻に厚生年金の年金記録を分割する制度はありませんが、改正により、配偶者の死亡時に年金記録を分割する制度が新たに創設されました。
具体的には、夫婦の一方が第3号被保険者期間(専業主婦期間)は2分の1、夫婦双方が厚生年金に加入している期間については夫婦の標準報酬月額等合計の2分の1が妻の老齢厚生年金に上乗せされます。
制度が改正されると、理解するまでに時間がかかるので「調べるのが面倒。なるようになる」と思われる方もいるかもしれません。しかし今回の改正では、会社員など厚生年金加入者の将来の年金にかかわる重要な事項が含まれていますので、しっかりと確認しておくことをお勧めします。
出典
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 さ行 生計維持
厚生労働省 遺族年金の見直しについて
執筆者 : 新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。
