21歳・大学生の娘が「同級生は親に年金を払ってもらっている」と言うのですが、子どもの年金を親が払うと何かメリットがあるのでしょうか?
ただし、加入義務はあるものの、実際には保険料を支払うことを猶予してもらっている「学生納付特例制度」を利用する学生が多数派です。納付特例を受けられる期間について、親が国民年金保険料を支払えたとしても、「学生が利用できるのであれば利用しておこう」という軽い気持ちなのかもしれません。
今回は、学生納付特例について考えてみます。
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
学生時代の年金保険料を追納する人は、わずか8.9%?
「学生が経済的な理由により国民年金保険料の納付が困難な場合には、保険料の納付が猶予される制度」である学生納付特例についての周知度は、厚生労働省の調査によると学生総数の83.3%で、ほとんどの学生が知っています。
一方、保険料の猶予期間中の保険料を納付すると、将来の年金額に反映するという周知度は54.5%です(出所:厚生労働省「令和5年国民年金被保険者実態調査 結果の概要」)。この結果から、どちらかというと、国民年金保険料は「学生が保険料を支払わなくていい制度」と認識されているようです。
将来の年金額に反映させるためには、納付特例期間から10年以内に、国民年金保険料を支払う「追納」をして初めて将来の年金額に反映されます。
ところが、厚生労働省が2024年12月3日に実施された第22回社会保障審議会年金部会の資料によると、学生納付特例における追納率はわずか8.9%です(出典:厚生労働省「国民年金保険料の納付猶予制度について」)。
この学生納付特例は、周知されているからこそ利用されているものの、かつ追納が可能な10年以内で追納する者は少なく、最終的に本人の老齢基礎年金の受給額につながっていないというのが現状でしょう。
学生時代の年金保険料猶予についての制度おさらい
20歳になると、国民年金への加入が義務づけられます。しかし、学生本人の所得基準により、保険料を納めることを「学生本人」が難しいと判断されれば、「学生納付特例制度」が申請できます。
申請をすることで、学生期間中の国民年金保険料の納付が猶予され、猶予期間中に障害になったり死亡したりした場合には、障害基礎年金や遺族基礎年金の受給資格に反映され、「満額の基礎年金」が受給できます。
一方、保険料を支払っていませんので、将来受給できるはずの老齢基礎年金の年金額には反映されません。そのため、将来の年金額を増やすためには、卒業後に「追納」することが重要です。
では、追納を実際に検討した場合の負担額を見てみましょう。もともと、国民年金保険料の負担は重いといわれますが、さらに、3年度目以降に保険料を追納する場合、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。
図表1
(日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」より筆者作成)
親が支払う子どもの保険料は節税につながる!
ここまで、学生納付特例の基本について説明をしてきましたが、もし、冒頭のように「親が学生である子どもに代わって、国民年金保険料を支払う」とどうなるのでしょうか。
結論からいうと、親が保険料を支払うことは節税対策になるといえます。
社会保険料控除は、「生計を同一にしている親族が負担するべき社会保険料について、所得から控除」できます。
令和7年度の国民年金保険料は月額1万7510円、年間であれば、21万120円です。令和7年に卒業した子どもの令和3・4・5年分の3年分(※注)を追納した場合には、60万1440円が親の課税所得から「社会保険料控除」として控除可能です。
学生を扶養していたときには、特定扶養親族として63万円が控除されていたかと思われますが、子どもが卒業してしまうと、この扶養控除は使えません。子どもが学生でなくなると、その年の年末調整で一気に所得税が高くなったことにビックリした方も多いかもしれません。
自分の節税と子どもの将来にも役立つという2つのメリットを享受するために、子どもの国民年金保険料を支払うのも一つの選択肢となりえるのではないでしょうか。
(※注)追納は10年以内であれば、古い期間順に納付できるため
出典
厚生労働省 令和5年国民年金被保険者実態調査 結果の概要
厚生労働省 国民年金保険料の納付猶予制度について
日本年金機構 国民年金保険料の学生納付特例制度
日本年金機構 国民年金保険料の追納制度
日本年金機構 国民年金保険料
執筆者 : 當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

