夫が45歳で亡くなりました。高校生の子どもと暮らしているのですが、遺族年金はもらえるのでしょうか? 子の年齢によって打ち切られますか?
今回は、夫が会社員であった事例について解説し、自営業者であった場合との違いについて補足します。
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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遺族年金の仕組み
会社員であった夫が亡くなり、その夫に生計を維持されていた妻と18歳未満の子が残された場合の遺族年金について解説します。
1. 2階建ての遺族年金
会社員であった夫が亡くなった場合、その遺族には遺族基礎年金に加え遺族厚生年金が支給されます(※1,2)。その仕組みは、図表1のとおりになっています。
図表1
2. 遺族基礎年金の支給要件と支給額
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者であった方が亡くなり、死亡した方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に支給されます。ここでいう「子」とは、「18歳の年度末までの方」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方」を指します(※1)。
したがって、高校生の子と暮らしている妻には、子が高校を卒業するまで遺族基礎年金が支給されることになります。
この家族に支給される遺族基礎年金の額は、83万1700円に子の加算額23万9300円が加わり107万1000円(令和7年度額)となります。
3. 遺族厚生年金の支給要件と支給額
遺族厚生年金は、会社員など厚生年金の被保険者であった方が亡くなり、死亡した人に生計を維持されていた「子のある配偶者」「子」「子のない配偶者」などに支給されます。この際、「子」の条件は遺族基礎年金と同様です(※2)。
したがって、高校生の子と暮らしている妻には、遺族厚生年金が生涯にわたり支給されることになります。また、40歳以上65歳未満の妻には、中高齢寡婦加算が支給されます。中高齢寡婦加算は、遺族基礎年金を受給中は支給停止されているため、この家族の場合、子が高校を卒業すると妻が65歳になるまで中高齢寡婦加算が支給されます。
遺族厚生年金の額は、亡くなった夫の勤務年数と平均年収から以下の式で概算できます。
遺族厚生年金の額=平均年収×勤務年数×5.481/1000×3/4
なお、勤務年数が25年に満たない方は、勤務年数が25年あったものとして算定されます。
例として、亡くなった夫が20歳から45歳までの25年間、平均年収500万円であった場合の遺族厚生年金の額は、下式のとおり51万3844円になります。
遺族厚生年金の額=500万円×25年×5.481/1000×3/4≒51万3844円
また、妻に支給される中高齢寡婦加算額は62万3800円(令和7年度額)になります。
4. 子が18歳の年度末を迎えると
例に挙げたケースでは、子が高校を卒業するまでは、遺族基礎年金107万1000円に遺族厚生年金51万3844円が上乗せされ、158万4844円の遺族年金が支給されます。
そして、子が高校を卒業すると、遺族基礎年金が支給停止され、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加わり、113万7644円の遺族厚生年金が支給されるようになります。
会社員と自営業者の違い
亡くなった夫が自営業者などであった場合、遺族年金は遺族基礎年金のみとなります。
したがって、高校生の子のある妻に支給される遺族年金は、遺族基礎年金の107万1000円(令和7年度額)のみとなり、子が高校を卒業すると遺族年金は支給されなくなります。
年金制度改正について
令和7年の年金制度改革では、遺族年金が見直されることになりました。
1. 遺族厚生年金の見直し
これまで遺族厚生年金は、男女により支給条件に格差がありました。今回の制度改正では、男女格差を解消するため、以下のような見直しが行われます(※3)。
《現行制度》
現行制度(図表2)では、子ども(18歳の年度末までにある子、20歳未満の障害等級1級または2級の子)がいない場合、30歳未満で死別した女性に支給される遺族厚生年金は、5年間の有期給付となっています。また、55歳未満で死別した子のない男性には遺族厚生年金の給付はありませんでした。
図表2
| 女性 | 30歳未満で死別 | 5年間の有期給付 |
| 30歳以上で死別 | 無期給付 | |
| 男性 | 55歳未満で死別 | 給付なし |
| 55歳以上で死別 | 60歳から無期給付 |
(※3を基に筆者作成)
《改正後》
今回の改正(図表3)では、男女共通で子のない配偶者が60歳未満で死別した場合、原則として5年間の有期給付に統一され、配慮が必要な場合は5年目以降も給付を継続することになります。子があった場合でも、子が条件を満たさなくなった時点で60歳未満であれば、その時点から5年間の有期給付となります。
図表3
| 男女共通 | 60歳未満で死別 | 原則5年間の有期給付 必要に応じ給付継続 |
| 60歳以上で死別 | 無期給付(現行通り) |
(※3を基に筆者作成)
この改正は、男性は2028年4月から即時、女性は2028年4月から20年かけて段階的に実施されます。
なお、改正前から遺族厚生年金を受給していた方や、2028年度に40歳以上になる女性には、この改正は適用されません。
2. 遺族基礎年金の見直し
現在、子のある配偶者に支給される遺族基礎年金が以下のような配偶者の理由により支給停止されていた場合でも、2028年4月から子に遺族基礎年金が支給されるようになります(※3)。
(1)遺族基礎年金を受給していた妻が再婚した場合
(2)妻(または夫)の収入が収入要件(年収850万円以下)を超えている場合
(3)離婚した夫(または妻)に養育されていた子を、夫(または妻)死亡後に元妻(または夫)が養育することになった場合
(4)祖父母などの直系血族の養子となった場合
まとめ
会社員の夫が死亡した際に、子のある配偶者には遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給されます。そして、子が高校を卒業すると遺族基礎年金は支給停止されますが、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加算されるようになります。
一方、自営業の夫が死亡した場合は、子が高校を卒業すると遺族基礎年金の支給が停止され、その後は自分自身の老齢年金を受給するまで年金はありません。
遺族年金は、子育て世帯にとって必要不可欠な制度ではありますが、子が高校を卒業すると支給停止や減額されることになります。したがって子育てが終わるまでは、世帯主に必要な生命保険を掛けておくなど、万一のときに備えることをお勧めします。
出典
(※1)日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
(※2)日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
(※3)厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

